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二次創作女性向小説置き場 主にマギ(シンジュ)青エク(志摩雪及び雪男受) 18歳未満の方の閲覧はご遠慮願います
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押しかけ妻ジュダルちゃん 後編
押しかけ妻ジュダルちゃん 前編の続きです



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***





「っ……う、」
 ソファーに体育座りをするようにうずくまっていたジュダルの頭を優しく撫でたのは、シンドバッドではなかった。
 まるで髪を整えるようなさらさらとした指遣いでもささくれだった心には十分に沁みて、赤く腫らした目の際からは簡単にぼろっと涙がこぼれる。
「…ッ……、」
 ぐすぐすと鼻をならす音が部屋に響いてから、やっと頭を撫でていた手の持ち主がため息をつくように声を漏らした。
「…あの人は、したって言ったんですか? 浮気」
 噛んで言い含めるように、ちゃんとジュダルに考える時間を与えるように、ジャーファルは尋ねてくる。
「……ッ…」
 その声にぶるぶるっとかぶりを振り、昨日の記憶を追いながら、少しずつ声に出していく。
「…っ言ってない、けど……つーか、あいつ、俺が聞いても、なんも言わなかったっつーか……ッッ俺は、何回も聞いてたのに…! あいつ、一回も、っ…一回も答えなかったんだぞ…!」
 感情が昂れば鼻の奥がツンと痛んで、ひくっと喉が鳴る。あやすようにぽんぽんと軽く背を叩かれて、余計に胸が苦しくなって、視界が熱く潤む。ぼろぼろと頬を伝うものは止まらなくなって、ソファーの上で抱えた膝にぎゅっと閉じた目を擦りつけた。
「…貴方がシンをどう思っているかは知りませんが。あの人、相当ずるいですよ?」
「…え、」
「自分の逃げ道はいっぱい用意しておいて、その上で貴方をいじめるような人ですから」
「ッ!?」
 膝に埋めていた頭を思わず上げれば、穏やかな笑みを浮かべているはずのジャーファルの目が不穏に揺らめいたように見えた。
「ちょっと、からかってあげましょうか」
 ぐらっと身体が倒れる。
 後頭部がソファーに沈んで、ジャーファルに押し倒される格好になって、彼の台詞をよく理解できないまま丸くなった目で見上げた。
「え…っ…??」
 夜着のままだったジュダルの襟元を、ジャーファルの手が掴んでばりっと開く。薄い布でできたそれは真ん中が開くタイプではないのにビリビリッと臍のあたりまで裂けて、無惨な形に変わってしまった。
「――ッ!!??」
「ほら、シンが見てると思って」
”仕返し”してやりたいんでしょう?
 ぐっと耳元まで近づいてきたジャーファルがそう囁いて、破れた布の隙間から手のひらをすべりこませてくる。無防備な脇腹をするりと撫でられて、ぞわぞわっとこそばゆさが背を撫でた。
「ッ、」
 びくっと腹に力がこもって、思わずジュダルはジャーファルの肩を掴んでいた。
「手伝ってあげますから。嫉妬させてやればいいんですよ、シンなんか」
「えっ…ッッちょ、はっ…!? え、何……」
 潜めた声が囁いて、やっとジャーファルの言の意味がわかったところで戸惑う心は変わらなくて、それでも抵抗するには彼の言葉はあまく響いて。
(仕返し、)
(そうか)
(ウワキされたなら、ウワキし返してやれば少しは)
(…少しは、アイツに効くのか?)
「……ッッ、」
 ふと過ぎった思考がぎゅっと胸を軋ませて、気がつけば唇を噛み締めていたジュダルにそれを気づかせるように、ジャーファルの指が唇に触れる。その途端キィ、と扉の軋む音がして、はっとそちらに目を向ければそこに立っていたのはジュダルが今一番会いたくて、会いたくない男だった。
「ッ!!」
「…やあ、ジュダルにジャーファルくん。何をしてるのかな?」
 浮かべているのは笑顔なのにぴりぴりとこちらの肌にまで伝わってくるのは明らかに威圧的な、怒りに似たもので。
「…あ……バカ、との…」
 息を詰めたのも呆然とシンドバッドに目を向けたのもジュダルだけで、それでもジャーファルの肩を掴んだ指は外せなかった。
「ジュダル、おいで」
 ソファーに歩み寄りながら、シンドバッドがこちらに手を伸ばしてくる。
「……ッッ、………ヤダ」
 その手を取る気にはなれずに、ぎゅうっと縋りつく手に力がこもった。
「…ジュダル」
「……やだ」
 しかし、意地でも動かない意思を固めようとジャーファルの腰にしっかりとしがみつくために回した腕は、するりと空を掴んで。
「っ!?」
 くるっと身体が回転させられ、ドンッと強く背中が押される。足から崩れ落ちる前に前のめりになったジュダルを広い胸が受けとめて、嫌な予感に思わず背後を振り返った。
「もういいでしょう。痴話喧嘩は、よそでやってくださいね?」
 差し出された助け舟からあっさりと降ろされて、裏切られたことに気づいて腕の中でもがいてももう遅くて、前を向き直せないまま、ジュダルは恨めしげに背後のジャーファルを睨みつけた。
「ッッ…てめ、ソバカス…!」
 それすら気に食わないというようにジュダルの身体を抱いた腕は頭ごと抱きこむようにぐいっと前を向かせ、胸元に抱えながら部屋を移動していく。
「ッんだよ、離せっ…! 離せよォ…ッ!」
 肌を合わせれば余計にシンドバッドの発する怒りが伝わってきて、落とされること覚悟で浮いた足をばたつかせても腰までがっちりと抱えられては腕の中から逃れられなくて、歩調すら怒っているようにずかずかと廊下を進むシンドバッドに、感情がごちゃごちゃと絡まって泣きそうになる。
「~~~っ!!」
(なんだよ、なんで怒ってんだよ)
(怒ってんのは、俺なのに!)
 惑乱する心の中からやっとのことで怒りを見つけた頃には、ジュダルの身体はいつもの寝室のいつものベッドに放り投げられていて。
「…ッッ! …ってめ…、」
 見つけた怒りをなくさないように、ぐちゃぐちゃになった心を悟られないように、身体の上にのしかかってくるシンドバッドをきつく睨みあげれば、形だけの笑みすら消したシンドバッドの手がジュダルの胸元に伸びて。
 ビッと耳をつんざいた音と、肌に伝わったわずかな衝撃に思わず目を瞑ってしまったジュダルは、目を開けた瞬間眼前の光景に絶句した。
「ッッ――!」
 臍まで破られていた夜着は下まで裂けて、下肢が露わに晒される。昨夜シンドバッドに抱かれたあとそのまま部屋を飛び出していたから、下着など身につけていなかった。
 それでもまだ気に食わないとでもいうように、シンドバッドの手は布切れと化したそれを腕から抜き、ジュダルから身につけているものをすべて取り去る。
 シンドバッドの視線が剥き出しの肌に絡みついてくるものだから羞恥にじわっと目元が熱くなって、つい身体を隠そうと身を丸めようとすれば膝は膝でシーツの上に縫いとめられ、両手首は掴まれて頭上にひとつにまとめられて阻止された。
「~~~っ!!」
 ちりちりとジュダルの肌を焼いていく視線から、逃れることができない。
 その視線が欲望や興奮より、怒りや冷静さを滲ませているような気がして、そんな目に晒されているのかと思うと恥ずかしさできゅっと身体の芯が縮こまった。
「どこまで、触らせた?」
 静かな声が、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
 笑っていない声。
 笑っていない口元。
 笑っていない目。
「っっ…、」
 ぞくっと触れられてもいない背筋を撫でたのは、得体のしれない恐れだった。
(こわい)
 ごくっと息を呑んだジュダルの唇を、空いているほうの親指がなぞっていく。先ほど強く噛み締めたそこは、わずかに赤くなっていた。それを見咎めたのか、下唇をなぞっていた親指はぐっと口腔に侵入してぐるりと歯列を撫でていく。
「っ…う…?!」
 すぐに人差し指が後を追うように潜りこんできて、頬の裏を指の腹で擦るように刺激した。口の中を探られる少しくすぐったいような感覚に戸惑っていると、舌がきゅっと摘ままれて唾液の滑りを借りてぬるぬると弄られる。
「っん、ン…!? っふ、ン、ん、んうぅ…ッッ、」
 抗議の声をあげようとしても舌を捕らえられていては言葉になるわけもなく、それどころかぬち、くぷ、と口腔を掻きまわされる水音が立って、不自由になった口端からとろりと唾液がこぼれ落ちて、羞恥に耳が熱くなった。
「ここは?」
 弄くりまわされた舌がじんじんと熱をもって、うまく回らなくなってから、ジュダルの唾液でたっぷりと濡らされた指がすすと内股へ移り、大きく開かされた付け根ぎりぎりの、筋の浮いた部分を強く撫でた。
「ッッ…!」
 そこを押されただけで、反射的にびくっと腰が跳ねる。突き上げるように浮いた腰のはしたなさと、べっとりと擦りつけられたものの正体を思い出して、全身がカアッと熱くなった。
「っっお前に、関係あんのかよ…!」
(お前だって、教えてくれなかったくせに)
(それなら俺だって、答えない)
 身体を襲う羞恥を怒りで振り払うように強気にシンドバッドを睨みつければ、笑みを消した男の目の色が一層深く、冷たくなったような気がした。
「……そうか」
 平坦な声がしたかと思うと、内股に置いた指が一気に尻の奥までずずっと捻じこまれる。
「ひ、ぅんンッ…!!」
 指の付け根があたるまで人差し指が突っ込まれて、いきなり前立腺にあたる箇所でぐるりと抉られる。
「っひぁ…!? ひ、や、やァッ…やだ、そんッ…っあ、あ、ぅんン…~~ッ!!」
 いきなり強い刺激を与えられてびくびくっと大きく腰がのたうつのに、きゅうっときつく締めつける内壁の抵抗を無視するように、男の指はぐりぐりとそこばかりを責めたててきて、ジュダルの口からは感じきった悲鳴のような喘ぎがあふれた。
「あ、だめ、やだ、そこやぁっ…!! やぁだ、ッン、ん、ん、」
 過ぎる快感にうまく息ができなくて、急激に熱くなった腰が、勝手にうねる身体が恥ずかしくて、ぱさぱさとかぶりを振って何度も拒絶を表すのに、弱点ばかり強く抉る指は容赦なくジュダルを苛んで。
「ッッ~~やだ、も、だめ、だめ、…っあ、~~~ッッ!!!」
 ぐっぐっと断続的にそこを優しく引っ掻かれて、一気に身体だけが勝手に絶頂まで追い上げられて、そそり勃った屹立から白濁がひゅくっとあふれた。
「~~っは、はぁ…はっ…はぁッ…、ぅ…んく、…ッン…!」
 はあはあとせわしなくなった呼吸を整えようとしても、腹の上にこぼれた精液を塗り広げるようにシンドバッドの手のひらがジュダルの腹筋の起伏を撫でて、びくりと脇腹が怯えるように引きつった。
「ッッ…、っひ、」
 カッと視界が赤く染まったのも束の間、まだ体内に食まされたままの指が存在を知らしめるようにぐるりと手首を回してくる。腹を撫でていたのは両手を縫いとめていたほうの手で、それでも自由になるはずのジュダルのその両手は、また身体を苛みはじめた指のせいでシーツに縋ることしかできなくなっていた。
「ひぅ、っや、むり、まだ、っも、やぁ…っあ、ア…!!」
 達したばかりの興奮しきった体内を、達する前と同じ強さで指が抉る。そればかりかぐっと腰を持ちあげるように中から指が引きあげられて、少しだけできた余地に中指がずずっと埋めこまれていく。
「っは、ああぁ…ッッ! ひ、んくっ…や、シン…まって、や、ヤッ…!」
 とうとう耐えきれなくなって、縋るものを求めて手を伸ばすのに、腰はぐずぐずで上体は起こせなくて、ジュダルの膝の上に乗るような格好で身体を起こしているシンドバッドには届かなくて、空を描いた手はまたシーツに舞い戻って、過ぎる快感に耐えるためにそこを掴むしかなくて。
 何度も何度も刺激された内部がどれだけ熱をもっていても、そんなにすぐまた精を吐き出せるわけもなくて、鋭い快感と苦しさが混ざり合わさった。
「っは、あ、アッ…!? っやだ、やめっ…ひ、あ、っあ…――ッ!!」
 それでも的確に、まるで精を絞りとるのが目的かのように中を掻きまわされて、きゅうぅっと腹に力がこもったかと思えばジュダルはまた精を放っていた。
「っはぁ、…っは、は…っ…んぅ…ッ!?」
 しかし、ぐったりと身体を弛緩させるジュダルを休ませないと言わんばかりにまた指がぬるりと蠢いて、今度こそジュダルの顔から血の気が引いた。
「ッッやだ!! も…っもうでな、でないっ…! もう無理、っひ…!」
 必死に縺れそうになる舌で訴えれば、ぐっと奥まで指が抉りこんできて、シンドバッドの上体が覆いかぶさってきて、ジュダルの耳にそっと囁いた。
「もう一度聞く。……どこまで触らせた?」
「ッ!!」
 今ではもう、なんとか掻き集めた怒りよりも怯えと哀しみが勝ってしまっていたから、その言葉を聞いた瞬間、堪えていたものがとうとう決壊して視界が歪む。ジュダルの頬を、ぼろぼろっと大粒の涙が伝い落ちていく。ひくっとしゃくりあげた音を漏らした途端、男の視線が集中してくるのがわかったけれど、目の前は滲んでぼやけ続けるだけで、見られているのがわかっているのに止められなくて。
「ッ…、…ぅ……な、で…っ、」
「っ、ジュダル?」
 身体を苛んでいた指が引き抜かれて、見たこともないくらい泣きじゃくるジュダルの様子を窺うように抱き起こされる。
 身体から余計な力が抜ければなおさら言いたいことが脳裏にあふれてきて、それを声に出すためにジュダルは目の前の胸元をぎゅっと掴み、すぅっと息を吸いこんだ。
「…ッ…、なんで…! っ俺のときは、答えてくれなかったのに…っ…ひ、…ッなんで、お前には、言わなきゃなんねーのッ?」
(お前は、教えてくれねーのに)
(何回聞いても無視したくせに)
 一度あふれたら止まらなくて、ひくひくと喉を鳴らして、情けない涙声も露わに、ぐずる声が続く。
「…ッ…ぅ、…っ…ンだよ、…シンコンは、ウワキしないんじゃないのかよ…」
 しかしぽつりとこぼしたその台詞を拾いあげたシンドバッドは、みるみる目を丸くすると間抜けな声をあげた。
「えっ? え、ジュダル? それって」
「ッ……?」
 どこかうろたえたようなシンドバッドを疑問に思い、泣き腫らした目で恨めしげに睨みあげれば、ごくりと喉を上下させた真剣な表情のシンドバッドと目が合う。
「もしかしてお前、そんなに嫌だったのか。浮気」
「ッ!?」
 当たり前だ、と言おうとして口を開いたのに、どこか自分の思考の世界に入ってしまったようなシンドバッドの独り言が聞こえてつい口を閉じてしまう。
「ていうか、そんなに俺のこと…」
 そう呟いたあとにぎゅうっと痛いくらいにきつく抱き締められて、全然意味がわからなくて、ジュダルは抗議の声をあげた。
「ッ……ンだよ、ウワキなんて嫌に決まってんだろォ!? お前、まじ何なの……ッッふざけるのも大概にしろよなっ!!」
「いや、だから…うん……確かに、お前が昨夜仁王立ちして、浮気してきたんじゃないかって不機嫌そうに問い詰めてきたのが嫉妬みたいで嬉しくて、つい……答えをはぐらかしたことは覚えてる」
「はァ!? はぐらかしたってテメ…じゃなくて、……ンだよ、嫉妬”みたい”、って」
「…だって、そうだろう? 身体をこうして繋ぐことはお前が嫁いでくるまでもあったことだが、好きだとか、愛しているとか、そういう言葉は交わしたことがないんだから」
「!」
「だから、今回お前が押しかけてきたのも、ただ周囲を引っ掻き回して楽しんでいるのかと、そう思っていた。……それでも楽しかったよ。お前と一緒に過ごすことが、少なくとも俺にとっては。お前はいつも身体を誘う文句しか言ってこなかったから、この関係が情愛からくるものだとは思っていないんだと、そう思っていたから、俺だけがそういう意味でお前を思っていると知らせるのが何だか悔しくてな。こちらも一度も告げていなかった」
「……え………、」
 あまりに一度に知らなかったことを告げられて、ぐるぐるとシンドバッドの台詞が頭の中を巡る。
(え、え?)
 惑乱する頭で、それでも自分が一番知りたかったことをそこから取り出そうと探しはじめたジュダルの耳に、悔恨を思わせるため息が届く。
「……すまなかった。言っておくが、酒を飲んでいてもお前以外に手を出すなんてことはしていないぞ?」
「へっ…?」
「ただ、お前が、まるで俺が好きみたいに嫉妬してくるのがかわいくて、もっと見ていたくて、…悪乗りした」
「ッッ…!?」
 昨夜知りたかったことはすべて浚って教えてくれたのに、あまりにそれがジュダルの理解の範疇を超えていて、その言葉を理解するのに少しの時間を要した。
(浮気はしてない、けど)
(浮気を否定しなかったのは、嫉妬みたいで嬉しかったから?)
(いや、ちょっと待て)
(さっき、こいつ言ったよな)
(俺と一緒が楽しいとか、そういう意味で俺を思ってるとか)
(え?)
(じゃあ、ほんとに)
(ほんとに、俺のこと)
 もしかしてもしかして、期待にきゅっと胸が引き絞られるような苦しさを覚えたちょうどそのとき、追い討ちのあまさを含んだ苦笑が降ってきて。
「お前が本当に嫉妬してくれてたってわかってたなら、あんな意地悪しなかったのにな」
「っ~~!!」
 思わずこみあげてくるものにも構わず恨めしげにシンドバッドを見上げれば、涙に濡れた目元を大きな手のひらが拭って、じっと覗きこんでくる。
 吸いこまれるように視線を合わせていた先のシンドバッドの瞳は、こちらが息を呑むほど真剣な熱を宿していて。
「俺は嫉妬したよ、ジャーファルに」
「!!」
 その言葉だけでも苦しかったのに、ゆっくりと言葉を間違えないように、退路をきちんと断つように、とどめをさされた。
「お前が、すきだからだ。――ジュダル」
 堪えていた涙が、またぷくりとあふれて頬を濡らしていく。
 ほろほろとこぼれおちる宝石みたいなそれを、シンドバッドは一粒一粒丁寧に、まるで贖罪のように唇で掬い続けた。
 
 
 
 
「ウワキしないのはシンコンのうちだけらしいから、離婚な!」
「はっ!?」
 泣かせてしまったジュダルを宥めて寝かしつけて、執務室で大人しく仕事を片付けていたシンドバッドの目の前につきつけられたのは、『りえん状』と大きく書かれたジュダルの字で。
 机の書類の上にバンッとその紙を叩きつけたかと思うと、何日ぶりかに絨毯を広げたジュダルは驚くほどの早さで城から飛び去っていった。
「…………、まいったな…仕事を片付けたら、と思っていたのに」
「自業自得ですね、シン」
 珍しく自ら仕事を片付けはじめた国王の行動理由がわかって、傍らのジャーファルが冷たく現実をつきつけてきたけれど、シンドバッドの口元はわずかに笑みに緩んでいて。
「…まあいい。あいつが戻ってきたら、また結婚するさ」
 ひるがえった絨毯の隙間から覗いた後ろ姿の、ピンク色に染まった耳たぶを思い出せば、シンドバッドの口からはくすりと笑みがこぼれたのだった。
 
 
 
 
 
 
END.

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