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二次創作女性向小説置き場 主にマギ(シンジュ)青エク(志摩雪及び雪男受) 18歳未満の方の閲覧はご遠慮願います
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ただ、ひとつだけを 2
「ただ、ひとつだけを」続きです やっと志摩くんのターン




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「………、……」
 指先をあげるのも億劫なほど、身体が重たい。
 講師を務めはじめるようになってからも、雪男は時折教授に呼ばれてこの部屋を訪れ、『訓練』を受けていた。
 取り入れる知識としてはもう十分だったが、毒の耐性をつけるための『実践』はこうして未だに続いている。
 頭に叩きこむのと身体に順応させるのとでは、かかる時間が違う。それに、身体の中に抗体をつくるのなら、できるだけ訓練も断続的に行う必要があった。
「――今日は、ここまでにしておこうか」
 腕時計を確認しながら、淡々と教授が雪男に告げる。
「耐性をつけるなら、本当はこのまま放置しておいたほうがいいんだけど。実は、この後ちょっと用があってね。とりあえず様子見て、緊急で身体動かさなくなっちゃったときはこの解毒剤飲んで。夕方には戻ってくると思うけど」
 じゃあがんばって、とソファーに沈みこむ肩をぽんと叩いて、教授は部屋を出て行った。
「…………ふ、…」
 古びた窓から差しこむ陽は、まだ高いところにあるようだった。
 ――このままこの怠さに身体を馴染ませていれば、この異質な毒も少しは円滑に対処できるはずだ。
 何事もなければいい、そうわずかに祈る気持ちで唱えて目を閉じれば、もともと重かった身体からどっと力が抜けていくような感覚があった。
 眠くはないのに、瞼が重い。
 疲れはないのに、指先までずっしりとソファーの生地に沈んでいるような錯覚。
(これは、人の身体の自由を奪うのにうってつけかもしれない。意識はしっかりしてるし、指先の感触もちゃんとあるみたいだから、身柄確保や拷問の用途によく挙げられるのも頷ける)
 動かない身体を持て余しながら今全身を回っているものの成分や効果について思考を並べていると、不意にひやりと手首を掴む感触に雪男はハッと目を開いた。
「――ッ!?」
 バッと勢いよく起き上がったつもりだったのに、実際には雪男の頭は少し起きた程度で、掴まれた手のほうに目をやれば隠れていたピンク色の頭がひょこっと顔を出した。
「なんや、こんなとこにおったん? 若センセ」
 人好きのしそうな少し下がった目尻をさらにくしゃりと緩めて無害そうな笑みを浮かべた廉造を見ても、雪男の目は丸く見開かれて少しこわばったままだった。
「…ッ……は…? なんで、志摩くんが」
「なんや、センセ探してたら迷ってしもたみたいでなあ…いや、それより若センセ、具合悪いのとちゃいます? 身体、よう動かされへんみたいやけど」
「いや、これは…」
 まさかこんなところに教え子が現れるとは想像もしていなかった雪男は、身体とは逆に正常に働いているはずの思考回路すら疑わしくなるほどに当惑し、見つけなければいけない言葉すら選べずに一度だけ気怠く長い息を吐いた。
「…………あ、」
(そうだ、解熱剤)
「ッわわ、お、あ、えっ…!!??」
 廉造の裏返って跳ね上がった声と、木の床の上でスニーカーがたたらを踏んだような音。やっとのことで教授の残していったセリフを思い出し、隣のローテーブルに雪男がふと視線を移したのと、かしゃんと何か儚いものが壊れたような音が部屋に響いたのは、ほぼ同時だった。
「……!」
 ローテーブルに手をついて身体を支えている廉造が目の前にいるせいでよく見えなかったが、テーブルの端まで流れていった液体がぽたぽたと床に落ちているさまは窺うことができた。
 テーブルに載っていたのは、教授の残していった解熱剤の瓶ひとつだけ。
「…あちゃー……なんや大事なもんやったらどないしよ………センセ、なんか知ってはります?」
 その場にしゃがみこんで苦々しい声音で呟きながらも、廉造はてきぱきと床までこぼれた液体と砕けた瓶の始末を始め、苦い笑みを貼りつけながら雪男を振り返った。
「……はぁ………」
 もう雪男の口からは心底呆れたようなため息しか出てこず、どこまで説明したらよいか考える力さえ吸いとられてしまったようだった。
 ぐったりと瞼を閉じれば、ややしてからすすっと首筋を撫でた指の感触にさあっと鳥肌が立って思わず目が開く。
「ッッ……!? な、にして…」
「…なんや、えらい色っぽいなァ、センセ…」
 どこかいやらしげに口角をあげた笑みを浮かべた廉造の目が、じっと雪男の瞳の中を覗きこむように視線を合わせてくる。
「…もしかして、すきな人のことでも考えとったん?」
「……はァ…? 意味が、わからな………っあ…!」
 まるで見当違いの問いを投げかけられて訝しげに眉を寄せた雪男の首筋から鎖骨にかけてを、手のひらがねっとりと撫で下ろす。思わずびくりと肌をふるわせた雪男の表情を見て、廉造の口端が一層にんまりと弧を描いた。
「ッば…! 何、して……ッッぅ…!」
 渾身の力を振り絞ってぐっと起こしかけた上体は、いとも簡単に胸板を押し戻されて再び深くソファーに沈んだ。そのままぷちぷちとシャツのボタンを外していく器用な指先を信じられないような目で凝視することしかできずに固まっていると、シャツの合わせから差しこまれた手がするりと腰をひと撫でして、ぞわりと広がった危機感に雪男はやっと身体をよじって抗いはじめた。
「はっ…なに…やめろ…、ッあ…!」
(なに、)
(何が起きて、)
(どうしよう)
(もし、先生が帰ってきたら)
 もがいても、身体はほとんど動かない。
 解毒剤は、すべてこぼれてしまった。
 こうして今考えているうちにも、節ばった長い指は雪男の肌を暴き、撫で回し、反応を大きく返す場所を執拗に、しかしそっと刺激していく。
「っふ……、…ぁ、あッ……っく…ん、……ン…!!」
 思わず出てしまう上擦った声は自分の耳には入っていないことにして、ぎりっと目の前の男を睨みつけるのに、返ってくる視線は腹立たしいくらいに余裕を含んだ笑みに細められていて。
「…ッ……しま、くん…ふざけるのも、いい加減に…ッン…~~~っ!!」
 弾んだ吐息混じりに尖った声を出しても、喋っている最中にきゅっと胸の突起を摘ままれて息を呑みこまざるを得なくなる。
 じわじわと身体の芯が熱くなるにつれて膨れあがっていく焦燥と混乱、そして言いようのない畏れ。
 それらをすべてなかったことにしたくて、雪男は冷静な思考回路をつくりあげていった。
(…こんなこと、今更なんでもない)
(これくらい、僕は平気なんだ)
(もっと、強くなるんだから)
(兄さんを守れるくらい、強く)
 しかし、そうやってぐらぐらと頼りなくなっている心の均衡を保とうとしても、すぐに目を逸らしていた側面が眼前に突きつけられる。
(いや、違うだろ)
(こんなの、いつもと全然違う)
(こんなの耐えたって、強くなれるわけないだろ)
(毒の耐性はつけられる、でもこれは、違う)
(ただの人の手のひらと、指先と、いや、何より問題なのは)
「……なあ、ほんまにすきな人のこと考えてたんやなかったら、なんでこないなことになってはるんやろなあ、ココ」
「…ッは、ぁ……あ…!?」
 廉造の膝が、雪男の足の間へ擦りつけるようにねっとりと動いた。
「っは、ぅ、く…や…はな、っあ、ぁ…――!」
 ぐっと近づく気配。
 至近でじっくりと快感や当惑、苦悶に歪んだ表情を眺めてくる視線は嫌になるくらいひしひしと感じているのに、布越しに熱を孕んだ弱点を刺激されつづけるせいでぐっと目を瞑り視線から逃げることしかできない。
「ッッ…ぅ、あ…っ……く、ン、ンッ…!!」
 しかし、瞼の裏にまで追いかけてきた強い視線の残像が、雪男の脳をさらに掻き回していく。
 それは、意地の悪さと、何かを透かして見ているような鋭さと、優しさと、すべてを呑みこんで混ぜ合わせたような深い深い色をしていて。
(ああ、)
 耐えるなんて、ましてや慣れるなんて、とんでもない。
 むしろ、もうこれ以上一ミリだって関わりたくない。
 この存在は、おそろしい。
「……、…ッッ…や、だ……」
 情けなくふるえるのがわかっていても、その言葉を押し出さないわけにはいかなかった。
「…へえ、そんな顔もしはるんですね……ん、」
「え、ぅあ、ッッああぁ…――!!」
 直に下着の中に潜りこんだ手のひらが硬くなった雪男の欲望を取り出して、じゅっと先走りを啜りあげるように咥える。
「ひ、ぅ、あ、あ、…ア…~~ッッ!!!」
 ちかちかと目の前が明滅する。
 自分の意思通りには動かないのに、反射的にびくんと腰が跳ねて、廉造の喉に擦りつけるようにいやらしく浮き上がる。
 どくりとひときわ大きく鼓動が胸を叩いた次の瞬間、雪男は精を放っていた。
「ッッ…は、は、…ッは、…はぁ…はっ……」
 急に周りの酸素が薄くなったように苦しくなって、ただ息を喘がせていると、もぞもぞと雪男の着衣を整えながら眦にふわりと唇が触れた。
「……ほんま、可愛らしなぁ…」
「――!!」
 うっとりとしたようなその声を聞いた瞬間、雪男は渾身の力をこめて振り上げた拳で廉造の頭をガッと横殴りにしていた。
「ッッたあぁ…!! っちょ、めちゃめちゃ元気やないですか…暴力反対!」
 頭を抱えて床に転がった廉造をおそろしく冷たい目で見下して、少しずつ回復してきた体力を感じながら追撃の機会を狙っていると、よろよろと立ち上がった廉造は未だに頭を片手で押さえながらもへらっと笑ってみせた。
「これ以上したら殺されそうなんで、今日は退散させてもらいますわ」
「は!?」
 言葉どおり、本当に部屋を出ていってしまった廉造に、雪男はしばらく自分の身に何が起きたのか事態を把握することができなくて。
 まるで嵐のようにすべてを引っ掻き回して行ってしまった同い年の教え子に、雪男は身体の毒がぶり返したような重たい脱力感に苛まれることになるのだった。






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