忍者ブログ
二次創作女性向小説置き場 主にマギ(シンジュ)青エク(志摩雪及び雪男受) 18歳未満の方の閲覧はご遠慮願います
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

迷い猫は死んだふり 3
「迷い猫は死んだふり 2」続きです
前回のアンケートを踏まえてお風呂襲撃と媚薬を書いてみました
投票してくださった方々どうもありがとうございました!



拍手[25回]





「………、」
 眠い。
 頭の奥が鈍く痺れたような慢性的な眠気を感じながら、シンドバッドはやっとの思いで自分のマンションのドアを押し開けた。
 強烈な睡魔をやり過ごしながらも、職場の仮眠室を利用せずに自室へと戻ってきた理由は、いい加減自室の風呂に浸かりたかったという表向きのものがひとつ。
 もうひとつは、誰にいう気もない、自分でもはっきりと言葉に表せない『焦燥に似たもの』で。
 強いて例えるなら、『気がかり』という表現が適当のような気がした。
(眠いし、疲れたし、ひとっ風呂浴びて、ただほんの少し『確認』できればいい)
 胸の内でも具体的な名前や容貌を思い浮かべないようにしていたのは、無意識だった。
 まるで、はっきりと『それ』を認識するのを避けるように、シンドバッドは表向きの目的を達成するために風呂場にまっすぐ向かった。
 着ていたシャツとスラックスを脱ぎ捨て、熱いシャワーを浴びる。少しは頭にかかっていた靄がぱっと晴れたような気がして一旦湯を止めたとき、からりと背後の引き戸の開く音がした。
「!?」
「よォ、 シンドバッド」
 思わずはっと後ろを振り返れば、裸のジュダルが正体不明の上機嫌な笑みを貼りつけてずかずかと浴室に足を踏み入れてくるところだった。ジュダルはすぐにシンドバッドの両肩を掴み、前を向くよう促してきて。
「背中、流してやるよ」
「ッはァ!? 起きてたのか、お前……いや、いいって」
「まあまあ、任せろよ」
「おい……」
 後ろを振り向かせないようにぐいぐいと背を押されるシンドバッドの耳に、ボディソープをポンプから押し出す小さな音が届いた。本当に背中を洗う気なのだと思えば、身体も疲労のせいで怠いし、眠気で思考能力も鈍く働かないしで身を任せてもいいかな、という気分になってくる。
「……はぁ」
 抵抗をやめたシンドバッドに気をよくしたのか、後ろから微かに弾んだ鼻歌と、スポンジをしゅくしゅくと泡立てる音が聞こえてきた。
 このとき、シンドバッドに眠気の混じらない正常な思考力があれば、ジュダルが普通に『奉仕』してくれるはずがないのだとわかったはずなのだが。
「――っ!?」
 ぬるり、と背中に擦り付けられる、あたたかく弾力のある不思議な感触。
 スポンジの柔らかな刺激が来ると思っていたシンドバッドは、背中が何で擦られているのかすぐに気づくことができなかった。
「…?? おい、ジュダル…?」
「……ッ、」
 ずる、と肌の上で上下した熱源の凹凸と、耳のすぐ傍で響いた小さな吐息、そして何より両肩にしっかりとかけられた手のおかげで、シンドバッドはやっとジュダルのとっている『体勢』がわかった。
「――ッ!? お前ッ」
 首だけを巡らせて振り返れば、シンドバッドの背にぴったりと胸板をくっつけた格好のジュダルが、至近でこちらを見ていて。
 シンドバッドの視線を受け止めたジュダルの表情は、もう既にシンドバッドが何度も目にした危うい艶を含んでいた。
「ンッ…いいだろォ…? スポンジよりこっちのが、気持ちいいって…」
 ぬるぬると背の上をすべる、熱い肌の感触。
 引き締まった胸板の弾力が肌に擦りつけられることで伝わってきて、シンドバッドはくらりと現実から遠のきそうになった自分の頭を抱えこんだ。
「はぁ……」
「ッ…ンだよォ、悪くないだろぉ? 疲れてンならじっとしとけって」
 これ以上俺を疲れさせる気か、と訴える気力さえ削がれて、うな垂れるシンドバッドの腕にジュダルの指が絡みつく。ボディソープでよく泡立てられた手のひらはシンドバッドの腕についた筋肉の隆起をなぞるように弱く強く擦って、やり方はどうあれ疲労に凝っていた身体が少し楽になっていくような気がした。
「………、」
 観念したように目を閉じ、小さく息を吐く。
(…もう、それこそ本当に猫か何かだと思えばいい気がしてきた……)
 どう考えても猫は背中を流したりしないし、まして身体を擦りつけて洗うなんてあり得ないのだが。
 あまりの疲労感に異常な悟りを拓きかけたシンドバッドの意識を引き戻したのは、未だ背に押し付けられるジュダルの上肢のある変化で。
「ッ……ん…は、……ぁ…」
 腹部や胸を押しつけることでシンドバッドの背に泡を広げていたジュダルの吐息が、少しずつ弾んでくる。
 胸の突起はじわじわと芯を持ちはじめて、硬くなっていくそこを押し潰すように肌に擦りつけられて、小さく鼻にかかったような声が浴室に響いた。
「…ンッ…、…っ……」
 充満してくる妖しい雰囲気に、大人しくしている場合ではないと眠さに鈍くなった思考回路が訴えてくる。
「おい、ジュダル……」
 咎めるようにジロリと背後に投げた視線などおかまいなしに、ジュダルは泡のついていないシンドバッドの耳の後ろをぺろりと舐めた。
「ンッ…は、シンドバッドォ……」
 笑みを含まない切なげな声で呼ばれたかと思うと、腕を撫でていたジュダルの手がシンドバッドの内股にすすと絡みついてくる。
 シンドバッドの制止も構わず、むしろ追い討ちをかけるように昂ぶった熱をぐり、と腰に押しつけてくるジュダルに、寝不足で脆くなっていたシンドバッドの自制の糸は簡単にふつりと切れた。
「はぁ……」
 シンドバッドはさわさわと大腿を撫でてくるジュダルの手首を突然ぐっと強い力で掴むと、ぐるりと体勢を変えタイルの上にジュダルの身体を組み敷いた。
「ッ!?」
「……お前の発情期は、いつになったら終わるんだ?」
 驚きにジュダルが見上げた先には、さっきまで頭を抱えてため息を吐いていた男とは思えないほどの平坦な目。
 感情の読み取りづらくなったその声と表情に戸惑っているうちに、ジュダルの耳に届いたのは淡々としたつぶやきだった。
「抜いてやれば、少しは大人しくなるかな」
 まるで独り言のようなそれを聞き返す前に、ジュダルの下肢にシンドバッドの手が伸びる。既に熱く興奮していたそこを確かめると、シンドバッドはそれに指を絡めて性急に扱きだした。
「ッ!? え、あ、あっ…!?」
 ジュダルに洗われたおかげでシンドバッドの手のひらはぬるぬると円滑に動いて、少し激しく上下に擦ってもジュダルの腰が快感に跳ねるだけだった。
「っひ、うっあ、あぁ…ッ! な、んッ…!? や、ちょ…まっ…ッんん…!」
 ただジュダルの様子を確認するように間近でじっと視線を注いだまま、ジュダルが反応を返すところを狙って優しく、力強く擦りたてる。
「っひぅ、あ、あっンン…っや、まだ、…ッん、うっ…」
 快感に耐えるようにぎゅっと眉を寄せて、時折かぶりを振る仕草に何か不満なのかとぼんやり疑問が湧いたけれど、それもシンドバッドの頭からすぐに消えていって。
「っは、ぅう、ンッ…んー…ッッ!」
 ぬめる指の腹で強めにぐり、と蜜口を擦れば、びくっと腰が引いたと同時にじわりと薄い液体で指が濡らされる。あふれでた先走りの液体に、ただでさえ上気していたジュダルの頬がぱっと赤みを増した。追い上げるようにペニスを扱く手が早くなってから、ジュダルは少しだけ焦ったような顔をしてシンドバッドの腕に膝を引っ掛けるようにして足を広げた。
「ッン、はっあ…んく、ん、ンッ…」
 ジュダルがおずおずと指を這わせた先は、大きく開いた足の狭間。
 何を焦っているのか二本の指をあてがい、かといってそう簡単に一度に挿入できるわけもなく、少しずつ腰を揺さぶって自らの指を飲みこんでいく。
「あ、くっ…ふぁ、ん、ンッ…!」
「………ッ、」
 目の前に繰り広げられるあからさまに淫蕩な光景に、シンドバッドはカッと腹が焼けるような感覚を覚えた。 
(こいつ……!)
 爆発的に膨れあがったのは、瞼の裏が白くはじけ飛ぶような欲望と、憎悪すら思わせるような腹立たしさ。
 どちらの強い衝動にも囚われる前にと、シンドバッドはすべてを終わらせるためにジュダルの屹立を手のひらで追い上げる動きを速めた。
「っふあ、あ、アッ…! っや、やだ、ひっ…あっう…~~~ッッ!!」
 絶頂を促すその手の動きにジュダルはぱさぱさとかぶりを振って拒んだけれど、先走りの蜜をこぼすその狭間をぐりぐりと親指で弄れば声にならない嬌声を迸らせて精を吐き出した。
「ッッ…っはあ、はっ……ッ、…ぅ、…は、ぁ……、」
 くったりと力を失ったジュダルを見て、『終わった』ことを確認すればシンドバッドの口からこぼれたのは正体不明のため息で。
「……はあ…」
 呆れか、安堵か、それともついつい大人げない手段に出てしまった自分への嫌悪か。
(…ほんとこいつ、どうにかしないと)
 手間のかかるやつだと思いながらも、骨抜きになっているジュダルの身体を流し、一緒にシャワーを浴びて風呂場から出る。
(一応脅されていると言っても、証拠もないことだ、追い出すことなんかいつでもできる)
(まあ、こうして何日も一緒に住んでいる事実があって、こいつが『俺に襲われた』と言いがかりをつけてきたら……正直、どちらを信じてもらえるか自信はないが。…特に、ジャーファル君あたりには)
「ん……」
「…!」
 夜も深かったせいか、一度抜いたらジュダルは眠そうに腕にくっついてきた。
 腕にしっかり回された他人の体温は寝不足の身には心地よすぎて、つらつらと考えながらも気を失ってしまわないうちにとジュダルの身体を引きずるようにして、一緒にベッドに倒れこむ。
(でも、拾ったのは自分だしな)
(多少手はかかっても、それに付き合う気はちゃんとある)
 もぞもぞと布団の中で身を寄せ直すジュダルを、眠気でくっついてしまった瞼のまま衣擦れの音と重なった体温で感じとる。
 瞼の裏に浮かぶ最近のジュダルは、どれも危うかったあの雨の日よりはずっといい顔をしているから。
(少しずつ悪戯をやめさせられたら、それでいいだろう)
 浴室での媚態がちらついて、シンドバッドはちりっと腹の奥を焼いた感情を少しだけ思い出す。
(自分から手を出す気は、ないはずなのに)
(結局俺は、こいつの手に落ちているのかもな)
 それでも、ジュダルが慣れた仕草で誘う様を目にすると、欲情すると同時にすぐに熱は冷めていった。
(拾った当日に襲いかかってくるようなやつに欲情してどうするんだ俺は、アホか)
 そう思っているのに一瞬でも目は奪われるし、黙らせるためと称して触れているのは事実なのだ。
(大丈夫、流されない、俺から手は出さない、ゆっくり更生させる)
 急がない。
 ゆっくり、少しずつ変えていく。
 そう念仏のように唱えているうちに、シンドバッドは泥のように深い眠りに落ちていた。
 シンドバッドのそんな決意など、ジュダルがそう簡単に受け入れるわけがなかったのだけれど。
 
 
 

 
 
 
「っは、はぁっ…は、っん…く、…っふ……!」
 腹の奥が、じくじくと熱い。
 スウェットの上からぎゅっと臍の上あたりを押さえこんで、ジュダルはソファーの肘掛けにずるりと頭をもたせかけた。
 熱いのは、正確に言うと腹の奥から尻穴の内側にかけてが、だった。
 ちらりと横目でローテーブルの上を見れば、先ほど中に塗りこんだゼリーのチューブが映る。思ったよりも効果は強くて、全身が熱いし怠い。ソファーの上で身じろぎするのも億劫なのに、ぐずぐずと体内で溶けるゼリーが触れた箇所だけが疼いて、勝手にうねうねと内壁が蠢くのがわかった。
(シンドバッドのアレ、でかかったから)
(もうちょっと、ほぐさないと)
 口に頬張ったシンドバッドの熱の質量を思い出すと、口内がとろりと潤む。ごくりと喉に溜まったそれを飲み下して、ジュダルは用意していた紙袋からころりとうずらの卵より少し大きいくらいのローターを取り出した。シリコンの凹凸がついた、悪趣味なくらい真っ黒なそれをつまみあげて、その手を膝を折り曲げた格好のままでスウェットのパンツと下着をかいくぐって忍ばせる。ゼリーでべたべたになった尻の狭間までつつと玩具をすべらせ、ひくつくアナルにぬるりと押しこめば、ずるずるっと中が引きこむようにうねって、ローターの突起が柔らかな肉を擦るその感覚だけできゅうっと腰が熱くなった。
「ふあぁ…っあ、アッ…!!」
 ぱちっと一瞬視界が弾けたと思えば、ぴったりとしたボクサータイプの下着がじわりと濡れた感触を覚える。肌にはりついたその不快な感触に、知らず苦笑が漏れた。
(はや……)
「っは、…は、ぁ…ん、っく…ふ……、」
 それでも身体の興奮は冷めなくて、じわじわと身体の中を灼く熱は収まる気配もなくて、それをしっかりと実感したジュダルは安堵の吐息をついた。
(そうそう、これでいいんだよ)
(あいつを気持ちよくできればいいんだから)
(今度はちゃんと、解しとくから)
(早く帰ってこいよ、)
「っは、はぁ…っん、シン……シン…っ…ッドぉ…」
 尻穴から垂れたコードを手繰って、リモコンのスイッチを入れれば体内に埋めたローターの突起がゆっくりとだがぐるぐると回りはじめる。
「ッッは…~~!! ひ、んく…ぁ、あッ…ンン…~~~ッ!」
 腹の奥に響く快感に、びくびくっと腰がいやらしく跳ね上がる。思わず腹を押さえるように背を丸めて、ソファーの肘掛けに頭を擦りつけた。
「ん、ンッ…」
(はやく、)
(早く帰ってきて)
(シン)
 しばらくじわじわと疼きと快感に意識を炙られていると、不意に遠くで微かにドアの開く音がしたように聞こえた。
「っ……?」
 涙でぼんやりと潤む視界で探れば、腹を抱えぐったりと横になった体勢のジュダルに慌てたようにシンドバッドが傍らに膝をつき、様子を覗きこんでくる。
「ジュダルッ? どうしたんだ、一体…」
 浅く呼吸をするジュダルを見て熱を測ろうと額に伸ばしたシンドバッドの手が届くより前に、ジュダルは重く怠い熱のこもった身体を起こして、シンドバッドの首にぎゅうとしがみついた。
「っは、くるし…ッん、助けろよ、シンドバッドォ…」
「……え…?」
 じんじんと痺れたようになっている手で尻から伸びたコードを探って、焦るあまり勢いよくズルッと引き抜けば、背筋をびりびりっと突き抜けた快感にジュダルの身体がきゅうとこわばる。
「っは、あぁ…~~ッ…!!」
 何度目かの吐精にもう下着を濡らす感触はごくわずかで、それでもびくびくとふるえる腰と、引き抜かれた玩具を見ればジュダルが何をしていたかなんて明らかで。
「……ジュダル…」
 シンドバッドはすっかり事情を飲みこんではぁ、と息を吐いた。
「ッ…なあ、ここ、あっちぃんだよ…こんなんじゃ、足りね……助けろよ、シンドバッドォ…」
 下着とスウェットパンツを脱ぎ落として、ソファーの背もたれのほうを向いたジュダルはシンドバッドに尻を向けるような格好になり、露わになった尻の狭間に指をひっかけてぐ、と広げた。少しだけ覗いた内壁はジュダルの息遣いと連動するようにひく、ひくと蠢いて、体内で温められたピンク色の潤滑ジェルがとろりとこぼれ、内股を伝い落ちていく。
「………、」
 シンドバッドはローテーブルの上の妖しげなチューブを見つけていて、それを手に取るとしげしげと眺めた。
「お前…またこんなもので遊んでたのか」
「ンッ…中、あっちぃ、から…はやく、こすって……」
 ゆらゆらと尻尾を振るように揺れる臀部にシンドバッドの手がかかって、それだけでジュダルの肌は期待にぶわりと粟立った。
(ここまでほぐせば、もう入るだろうし)
(ちゃんと準備したから、大丈夫、きもちよくできる)
(やっと、できる)
 ぎし、とソファーの軋む音がして、背後の身体が動く気配がした。
 何かがぬるりと押し当てられ、奥までぐぐっと内壁を押し開いてもぐりこんでくる。
「ッッふあ…あぁッ…あ、アッ……!?」
 しかし、それは男の身体の感触ではなく。
 内壁を抉ったのは、覚えのある無機質な凹凸の感触だった。
「っな、んでこれなんだよォ…ッ…も、これはいい、から…ッんん、お前の、いれろよぉ…っ…、」
 背後を振り返って恨めしげにシンドバッドを睨みつけたジュダルは、入りこんでしまった玩具を抜きとろうとコードを手で探った。それに気づいたシンドバッドはうろうろと彷徨うジュダルの手から逃れるようにコードを誘導して、スイッチを最大まで上げた。
 ぶるぶるっと強く振動すると同時にローターの周りについた突起物がぐるぐると回転し、ジュダルの体内を捏ねまわす。
「ッひ、ああぁ…ッッ~~~!!」
「…俺はいいって、何度も言ってるだろう? …収まるまで、手伝ってやるから」
「っや、やだ、あ、あぅん…ッ!! っちが、ッヒぁ、あ、ア…ッ!」
 腹の奥が熱くて、ぐずぐずになったそこをぐるぐると掻き回されて、それだけでちかちかと視界が明滅していたのに呆れたような、それでも優しい声が頭の上から降ってきて、先走りの蜜ばかりをだらだらとこぼす欲望の証に指が絡められて。
「ッひぅ、や、それやだ、ふあッ…ぁ、あ、~~~ッッ!!」
(違う、やだ、俺は)
(お前がきもちよくなきゃ、意味ないのに)
 いくら頭の中で訴えても、舌は縺れて引きつった喉から押し出されるのは嬌声ばかり。身体の中心は熱く痺れて思い通りに動かず、過ぎる刺激に耐えるようにぎゅうと背もたれの生地にすがりつくことしかできなくて。
「や、シン、ぁ、あッ…、」
(やめときゃよかった)
(こんなんじゃ、ろくに抵抗もできない)
(違うって、わかってもらえない)
 それでも背もたれに額を擦りつけるように首を横に振るジュダルに何を思ったのか、シンドバッドの手のひらがまるであやすように頭を撫でてくる。
「苦しいんだろ? いくとこまでいかないと、終わらないぞ?」
「ッッ…は、ぅうンッ…はっあ、アッ…っんん…!」
 その言葉を、声を、手のひらの温かさを与えられたときのほうがずっとずっと、一番苦しくなった。
(違うのに、)
(俺がしたいのは、こんなんじゃないのに)
 優しい手と、容赦ない玩具の撹拌に何度も絶頂を促されながら、ジュダルはまた『失敗』した無力感に苛まれることになるのだった。

 


***

 


 どうして、シンドバッドは俺を抱こうとしないんだろう。
 俺は、きもちよくできるのに。
 一人で慰めるより、いや、そこらへんの女どもとするよりも、ずっと。
 ――パンッ
 そう思ってシンドバッドに伸ばした手は、何度目かで強く振り払われた。
「あ……」
 しまった、という顔をしたあとで、なにかを言いかけた口をいったん噤んでから、シンドバッドはふっと息を吐いた。
「…だから。何度言ったらわかる。俺は、お前のことは抱かない」
 呆れたように、それでもしっかり突きつけられたその言葉に、一瞬だが視界がぶれたような気がした。
 ほんの少し感じたその違和感を突き止めようとする前に、ふわりと大きな手のひらがジュダルの頭上に降ってくる。
「…何もしなくていいから」
 わしわしと少し痛いくらいに頭を撫でて、俺は風呂に入ってくるからとすぐに温もりが離れていく。
「……寝てろよ?」
 一度ジュダルを振り返って釘を刺したシンドバッドに、頷くことも首を振ることもできずにただ、男が消えていったドアをぼんやりと視界に映す。
「…………」
(なんで)
(俺は、ここにいたいのに)
 ジュダルを抱くこともしないのに、どうしてまだここに置いてくれているのかがわからない。
(いや、理由なら、あるか)
(…俺を抱かないのは、俺がシンドバッドを脅してるから)
 脅迫者に手を出す気も起きないのは、当然なのかもしれない。
 むしろ、脅されているからこそ、多少なりとも『処理』として触れてくれているのではないか。
「………、」
 そんな思考に思い至れば、脅迫めいた文言を撤回することもできなくなった。
(だって、)
(それこそ、脅すのやめたら、追い出されるかもしれねェじゃん)
(だから、俺は、あいつを気持ちよくさせたいのに)
(いい方法だと、思ったのにな)
(だって俺には、何もないし) 
 気がつけば、ジュダルは振り払われた手のひらに目を落としていた。
(これくらいしか、できることないのに)
(それをするなと言われたら俺は、いったいどうすればいい?)
 脅しは、効いているはずだ。
 抱かれていないとはいえ、言質はとっている。
 それはわかっているのに、振り払われた手がこんなにも重く痺れているのは、なぜなのか。
 手の中にあると思っていたものがいつまで経っても掴みきれなくて、ジュダルは足元から這いのぼってくる不安を振り切るように寝室へ向かった。
 










PR
| prev | top | next |
| 42 | 41 | 40 | 39 | 38 | 37 | 36 | 35 | 34 | 33 | 32 |
カウンター
管理人
HN:
くろえだくろき
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
くさってます。Sじみた攻とちょっとばかでかわいそうな受がだいすきです。よろしくおねがいします。

生息中
参加&応援!
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
最新コメント
最新記事
バーコード
ブログ内検索
P R
忍者ブログ  [PR]
  /  Design by Lenny