忍者ブログ
二次創作女性向小説置き場 主にマギ(シンジュ)青エク(志摩雪及び雪男受) 18歳未満の方の閲覧はご遠慮願います
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

迷い猫は死んだふり 4
「迷い猫はしんだふり 3」の続きです
もやもやジュダルちゃん


拍手[37回]






 一度手を振り払われたら、こわくなった。
 また振り払われるんじゃないかと思うと、手を伸ばせなくなった。
 今までシンドバッドにああしようこうしようと思っていたのに、今では何も思いつかない。
 行動指針を失って、シンドバッドとの距離がうまくはかれなくなって、いつも通りにしようと思うのについ、触れることを避けてしまう。
 ジュダルのそれはけしてあからさまなものではないし、むしろ今までのスキンシップが過剰だったのだから、シンドバッドには喜ばしい変化に見えるはずだった。
 その微妙なぎこちなさに、シンドバッドが気づいていなければ、の話だが。
 このままではいけないとわかっているのに、なかなか思った通りに動けなくて、ジュダルは焦っていた。
 幸い、シンドバッドと顔を合わせることはぐっと少なくなっていたのだけれど。
 シンドバッドの職業柄、忙しくなるときはずっと家に帰ってこないことがあった。
 それがどうやら今のようで、部屋は一日中がらんとしていることが多くなっていた。
(早く、今のうちに元に戻さないと)
(でも、どうやって?)
 何度考えてもうまい答えが見つからなくて、でも、顔をつきあわせたらどうしたらいいかわからなくなるのに、一人は寂しくて。
 今まで最終目標は遂げられなかったものの、シンドバッドは何だかんだ言って触れてくれていたから、それを思い出すともうだめだった。
 一人で潜りこんだ寝室のベッドの上ですっぽりと上掛けにくるまると、微かに香る男の匂いが鼻腔をくすぐって、たまらない気分になる。
「……ッ…、」
 触れた指の熱さを思いながら自分の身体をまさぐれば、もう何日も男の存在を感じとれずにいるせいで、閉じた瞼の裏に描いた妄想にどんどんのめりこんでいった。
(シンドバッド)
「ッ…ぅ、…は…っ……、」
 いつも触るのは自分ばかりで、押しつけて押しつけて、やっと怒ったような手が伸びてきて。
 手のひらの熱さを思い出すと腰がかっと熱くなって、ジュダルはもたつく手でスウェットパンツと下着を膝まで下ろし、昂ぶりはじめた欲望を直接握りこむとシンドバッドの手の動きを踏襲するように動かしはじめた。
「っあ、…! ふ、ぅ…ンン…っく……ん、ンッ…!」
 手のひらの大きさも、指の太さも自分のそれとは違ったけれど、触れられたときの熱を思い出して、動きも似せて、今ここにある快感が男からもたらされるものだと夢想する。
「ンッ…はっあ、ぅン…ぁ、あッ…シ…、」
(シン、シン)
 現実に引き戻されそうになる度に胸の内で名前を呼んで、脳裏に映した男の輪郭を鮮明なものにしていく。
「っふ…、…ッんン…!」 
 身体が興奮するにつれて感情もまた昂ぶって、ずっとずっと抑えこんでいた特殊な色をした気持ちがあふれだして、胸の内に渦巻くそれぞれの色と混ざりあい、掻き回されていく。
「うあ、アッ…は、ンンッ…ん…~~っ!」
(シン、シン)
(すきだ)
(ここに、ずっといたい)
(でも、どうしたらいいかわからない)
(捨てられたくないよ)
「っひ、…ッッ…ぅ、…あ、アッ…――!!」
 脳裏に浮かぶ叫びで、頭の中はぐちゃぐちゃで。
 生理的なもののせいか、振り切った感情のせいか、いつのまにかひくひくと喉が引きつって、あとからあとからこみあげてくる涙のせいで余計に目は開けられなくなって。
 嗚咽まじりの情けない嬌声をあげながらどくりと欲望を吐き出しても、残ったのは胸を塞ぐような苦しさと、目を覆う絶望ばかり。
「…っ…、は、……ッ…」
 その現実から逃れるように、達した後に優しく触れてくる男の手のことを考えて、ゆらゆらとぼやける世界を映す目を閉じれば、また眦から生温い液体が一筋頬を伝っていくのを感じた。
 
 





 
「ただいま、ジュダル!」
 何日ぶりかに帰ってきたシンドバッドは、いたく上機嫌だった。
「いや~、やっと関わっていた案件が一段落してな。これからしばらくはベッドで寝られる…!」
 どっかりとソファーに腰をおろして、シンドバッドは抱えていた紙袋から酒瓶をどんどん取り出していく。ローテーブルに並んだ何種類ものアルコールと、簡単なつまみの組み合わせを見れば、これから何がはじまるのかなんて明らかで。
「本当はつまみくらいつくりたかったんだが、時間が惜しくてな。ジュダル、好きに選んでいいから付き合えよ?」
 シンドバッドは既にどこかで一杯引っかけてきたのではないかと思うほど相変わらず機嫌がよくて、よく冷えたビールの中瓶を取るとプルタブを開け、隣に腰かけたジュダルにも何か選ぶよう勧めてくる。
 アルコールを勧められるのは今のジュダルにとって都合がよかった。未だどうしたらいいかわからないまま混線した感情の糸を素面で持て余すよりも、難しく考えることを放棄してしまったほうがまだ、元に戻れると思った。
「……じゃあ、これ」
 ジュダルは桃の果実がプリントされた缶チューハイを手に取ると、シンドバッドはにっこり笑ってその缶にビール瓶をこつんとかちあわせてくる。
「乾杯!」
 ぐっと瓶を呷るシンドバッドにつられるように、ジュダルは一気に缶を傾け、ろくに味わいもしないままごくごくと喉を鳴らしていく。しゅわしゅわと喉を弾く炭酸の感触が少しきつかったけれど、飲めば飲むほどごちゃごちゃ考えていたときの不安や苦しさが遠ざかっていく気がして、タン、とローテーブルに缶を置いたときにもう、中身は随分軽くなっていた。
「おおなんだ、いい呑みっぷりじゃないか。たくさん買ってきたから、好きなだけ飲めばいい。これが好きなのか? じゃあ今度は桃の酒を色々買ってこよう」
 桃が好きならこの辺もきっとうまいぞ、とジュダルの前におすすめの酒を並べるシンドバッドをゆらゆら揺れる視界に映して、きゅっと心臓が絞られるような痛みから逃れるようにまた缶を呷る。頭に血液が集中したようにどくどくこめかみが鳴って、顔が熱くて、座っているだけでは上体がふらふらと心許なくて、でも隣の存在に近づくことを避けるように、かといって悟られないように、距離をなんとか保って。
 くらくら揺れる頭を距離をはかることに集中させていたせいで、ジュダルはシンドバッドがその様子にじっと視線を注いでいることに気づくことができなかった。
「………?」
(どうしたんだ、こいつ)
(前はあんなにぺったりくっついてきたっていうのに)
(というか、まだ一缶あけたばかりなのにふらふらしてるし)
(それなのに、なんか…こっちに寄りかかってこないのは、おかしくないか?)
(背もたれに寄りかかってるならまだしも、なんとか上体起こしてるみたいで危なっかしいし)
(目元も真っ赤だし、さっきから全然話さないし、もしかしてこいつ、酒弱いんじゃ…)
「…ジュダル?」
 おかしいところはいくつもあって、いくら上機嫌に酔っ払っていても少し経てばさすがに異変に気づいて、シンドバッドは隣の存在にぐっと距離を近づけると、俯いた顔を伺うように覗きこみ、確かめるようにそっとジュダルの頬を手のひらで擦った。
「なんだ、元気ないな。…どうかしたのか?」
 瓶を持っていたせいでよく冷えたシンドバッドの手が、頬に心地よい。
 心配そうに眉を下げて見つめてくる視線が、頬を包む大きな手のひらが優しくて、至近でそんなものを与えられて、あふれでた感情を酔いで緩んでいた理性が止められるわけもなかった。
「……っ…、」
 弱った心が脆く溶けて、赤らんだ目の縁からぼろっと大粒の涙がひとつ、こぼれていった。
「!?」
 シンドバッドがはっと息を呑みこんだ音はもうジュダルには聞こえていなくて、ぽろぽろと弱々しい本音が唇からあふれだす。
「…なあ、俺の身体、いやか?」
「………はっ!?」
「物足りねェ? 俺じゃ、お前のこと、気持ちよくできない?」
 心の奥の奥にしまってあった弱音がこぼれるたびに、頬をすべり落ちていく涙がシンドバッドの指を濡らしていく。
「…なぁ、俺じゃダメなの? 拾ったのは、お前なのに。なんで拾ったのに、俺のこと、こんな、」
「は…!? ちょっと待て、おい、何言ってるんだ」
 ジュダルが何を言いたいのかやっとわかってきて、シンドバッドは涙で濡れるジュダルの眦を親指で拭いながら、潤む瞳をしっかり見つめて言い聞かせた。
「ジュダル、お前は何か勘違いしてる。俺は、そういう目的でお前を拾ったんじゃない」
「ッ…? じゃあ、なんで」
 しかし、改めてそう問われるとシンドバッドは一瞬言葉に詰まってしまった。
 それは、あの雨の日うずくまっていたジュダルに目を止めたのが、混じりっ気なしの善意とは言いがたかったから。
(あのまま警察として保護して、組織に任せなかったのが、何よりの証拠だ)
(俺は確かにこいつのことが、個人的に気になった)
(でも今、それを言う気はない)
 シンドバッドはジュダルに向ける思いを棚上げして、仕事上の顔を取り付けた。
「…俺がお前を拾ったのは、お前の顔に見覚えがあったからだ。…もしかしたらこいつは、あのDVDに映っていた奴じゃないか、と」
「!」
(間違ってはいない)
(これも、本当のことだ)
(俺の個人的な感情のことなんて伝える必要はない)
(そんなものを伝えて、これ以上こいつを困らせるつもりはない)
 一番大切なのは、ジュダルに余計な負担をかけないこと。
 そう考えていたから、言葉を選んだものの、シンドバッドの視線は信念を含んだはっきりしたものだった。
 その言葉を信用するしかないと思わされるほど、嘘の気配を感じられなくなればなるほど、ジュダルが追い詰められていくなんて、シンドバッドは思いつきもしなかった。
「……ッッ…、」
 涙は止まったはずなのに、視界がぶれる。
 さっきまで頭を巡っていた血液はすぅっと足元まで落ちて、胸に一際大きく鋭い氷が差しこまれたような痛みが走った。
(そうか、仕事か)
(そうだよな)
(こいつは優しい)
(それ以上でも、それ以下でもない)
(ただ、それだけのことだったのに)
 どうしようもなく冷えた身体を、何も知らない優しい男の腕があやすように抱き締めてくる。
「お前は、何もしなくていいから」
 だから大丈夫だと背を撫でる手のひらは、泣きたくなるくらい温かくて。
(こいつは、俺を捨てることはない)
(それはわかったのに、なんでこんなにさみしいんだろう)
「………っ…、」
 告げる言葉はある。
 でも、それを告げる勇気がない。
 それでも、シンドバッドの優しさにつけこむだけつけこんで、最後の最後、寂しさに押し潰されるぎりぎりのところまで、ジュダルは傍にいようと心に決めた。
 





PR
| prev | top | next |
| 47 | 46 | 44 | 43 | 42 | 41 | 40 | 39 | 38 | 37 | 36 |
カウンター
管理人
HN:
くろえだくろき
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
くさってます。Sじみた攻とちょっとばかでかわいそうな受がだいすきです。よろしくおねがいします。

生息中
参加&応援!
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
最新コメント
最新記事
バーコード
ブログ内検索
P R
忍者ブログ  [PR]
  /  Design by Lenny