二次創作女性向小説置き場
主にマギ(シンジュ)青エク(志摩雪及び雪男受)
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2024.05.07 Tuesday
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ラプンツェルのいのちづな 3
2013.07.02 Tuesday
***
「シンドバッド、俺と世界せーふく、する気になった?」
きっぱりと断ったはずのその提案を何事もなかったかのように蒸し返されて、シンドバッドは軽く目を瞠ったあと、じっとりと真剣味を帯びた視線でジュダルを見つめ返した。
(おかしい)
(あの時確かに、ジュダルは俺の言葉を自分なりに噛みくだこうとしていたように見えたのに)
(あんなこと、忘れるはずがない)
「……疑ってみたか? ジュダル」
よもや以前交わした会話を忘れているわけではないだろうと言外に含めたその問い。
「――疑うモンなんて、なんもなかったよ。…なーんも」
そう返したジュダルの瞳の色は深く、その声色からもうまく感情を読みとれなくて、シンドバッドはその違和感に眉を寄せた。
「…? ジュダル?」
しかしそれもつかの間のことで、ジュダルの目はすぐにわかりやすい色を帯びていびつに煌めいた。
「いーから、俺と世界をぶっこわそうぜ!」
「…ジュダル。それは、もう断ったよな?」
幼子に言い聞かせるように言っても、その重みを受けとめて衝撃を受ける少年の面影は既に無く。
「そうだっけ?」
ひらりひらりと視線を躱し、重みを持たない笑みが、言葉が舞っていくだけ。
「お前の気だって、変わるかもしんねーだろ?」
シンドバッドの答えを聞く前に腰をあげたジュダルが、誰よりわかっていたはずだった。
「それまで俺は何度でも来るよ、シンドバッド」
彼の言葉が、すべて、彼だけの望みにすぎないことを。
何度も、そんな会話をした、ような気がする。
そんなことまで、忘れていた。
今まではただ、運命が憎くて仕方なかった。
仇が誰か、なんて思考回路はきれいにぷつんと断たれていて、そんな自分を馬鹿だと思える余地すらなかった。
(なんでだろう)
(チビに変なものを見せられてから、欠けてたものがいくつもはめこまれたみたいだ)
それでも、最初にシンドバッドに触れられた記憶はいつまで経ってもあいまいなままで、頼りなくて、頭が痛くなる。
(やっぱり、俺は全部思い出したわけじゃない)
(何か、欠けてる)
(でも、それが何なのかわからねェ)
(仇のことだって、ちらりとも頭を掠めなかったみたいに)
「……ッ」
今では、こうやって少し考えただけでも臓腑をどろりとしたものが灼いていくというのに。
「……くそッ、」
(チビに見せられたアレに縋りつかなきゃならねーなんて)
(マギの、俺が、)
取り戻した記憶が紛れもない自分のものでも、そのきっかけは確かにあの小さなマギによるもので、何より頭に流しこまれた“真実”の映像は、幼い時分のジュダルのそれよりも遥かに鮮明だった。だから結局、今ジュダルがしがみついている光景はアラジンが与えたものなのだ。そう思うと口から苦々しい舌打ちが出たが、今はそれよりも優先して考えるべきことがあると思い直した。
(でも、まだ、覚えてる)
(覚えていられる)
(もう、なくさない)
(俺は、俺のまま)
(大丈夫だ)
(まだ)
自分にそう言い聞かせるうちに、いつの間にかジュダルは編みこんだ髪を握りしめていた。
父の面影をなぞるように、瞼のうらの光景が今ここにあることを手のひらにしっかりと感じとれるように、もう二度と忘れないように。
(大丈夫)
(こうしていれば、きっと思い出せる)
(目に焼きつけて、手のひらで握りこんで、なんでこんなモンが気になるんだってくらいに、強く刻みこめばいい)
もし何もかも忘れても、思い出せるように。
それはジュダルにとって祈りに限りなく近い“おまじない”だった。
***
シンドバッドと身体を繋げたのは、一度だけではなかった。
シンドバッドが外交や冒険で国外に出たときを狙って、ジュダルは何度も彼の寝床を訪れていたから。
初めのころは勧誘の言葉を並べたてていたジュダルだったが、いつしか会話を交わすことはなくなっていた。というより、ジュダルが喋ることがなくなった。
黙っていれば、否定をされることもない。
何度目かの夜を過ごして、ジュダルが気づいたことだった。
ただ一緒に眠るだけの夜も少なくなかった。
シンドバッドが近くにいるととても息苦しくて、それでも腕の中から出たいとは思わない自分にジュダルは眉をひそめたものだった。
(こんなに、くるしいのに)
(わけわかんね)
そうやって良いとも悪いともいえないもやもやを抱えながら組織に戻れば、黒の正装に身を包んだ大人たちがずらりとジュダルを囲んだ。
「――……?」
「どうやら、“改訂”の頃合いですね」
「なに、」
それが何を指すのかすぐに理解することができず眉をしかめると、何てことはないような口調で説明が返ってくる。
「マギ殿は、大事に大事に育ててしまったせいか、定期的に黒ルフが頼りなくなる」
「それを、書き加えて改めるのです」
「――記憶を改めなければいけなくなるほどの、責め苦を与えてね」
「――――は、…………!?」
耳を疑うジュダルを無視して四方から黒い手が伸び、手足は絡めとられ、身に着けていたものはすべて引き破られていく。全身に力をこめて拒もうとするジュダルを意に介した様子もなく、淡々と説明は続いた。
「もっともそんなことができるのは、偉大なる父の金属器のおかげです」
「そう、これが父の意思なのです」
「~~ッふざけ、んぐ、んぅ…ッッ…~!!!」
身動きのとれなくなる恐怖をふるい立たせるように怒鳴りかけたジュダルの口は、興奮しきった雄の性器を押しこまれて喉を詰まらせるように呻くだけとなった。
「ん゛ん゛ッ…~~!!」
口を閉じられないように顎を掴まれたまま、気持ちの悪い体温が口腔を抉っていく。鼻をつく生々しいにおい。こみあげるものがぐぅっと喉までせりあがり、眦が熱くなる。
「……貴方は賢く、優しい子だ」
慈しむようなその声音とは反対に、周囲の手は理性を今にも手放さんばかりに荒々しくジュダルの身体を扱い、無理に開かせていく。
「ぅぐ、んーーッッ! ぅ、う、~~ッッ!!」
「だからこそ、耐えられないでしょう」
足が、開かされる。
指が、ねじこまれる。
全身が、気味の悪い熱で濡らされていく。
黒を身に纏った人間が、ずらりと並んだ目の前で。
「矜持を奪われ、その姿を曝され、そこから目を背けることも許されない」
それだけではなかった。
目の前に並んでいるのは、組織の人間だけではなかった。
ジュダルの視線は目の前に映しだされた映像から引き剥がすことができないまま、じわりじわりと丸く見開かれたあと、その瞳にはゆっくり絶望が射しこまれていった。
「それが亡き両親と、信じてきたはずの私たちの前で繰り広げられるのだとしたら、尚更」
「―――、」
悲鳴は、喉に張りついて音になることはなかった。
眼前につきつけられたのは、両親の血と、悲鳴と、亡骸ができるまでの過程。
その前で、足を大きく広げられ、男に吸いつかれ、体内をいじくられている自分を、ジュダルが受け入れられるわけがなかった。
「……最近“改訂”の間隔が短いようだが、まあ大丈夫でしょう」
「引きがねは、私たちの手の中なのだから」
(ああ、はじまる)
(どうして)
(お願いだから、)
(見ないで、)
(見せないで)
「……ゃだ、…ッッやだあァァァ…――!!!」
絞り出した慟哭が自分のものだと理解する間もなく、ジュダルの思考に繋がる回路はそこでぶつりと断ち落とされた。
***
「………、」
全身がどっぷりと泥に浸かっていたかのように重い。
なかなか床から頭を持ちあげることができず、首を傾げるのもおっくうで、それでも眉間に皺を寄せずにいられなかった。
(…なんか、すっげーだりィ)
起こしかけた頭をごつ、と冷たい床の上に戻し、ジュダルは眠りに落ちる前のことを思い出そうとするように目を閉じた。
(昨日は、)
(シンドバッドのとこに行ったけど、一緒に眠っただけだった)
(そんで、)
今ジュダルがいるのは、ジュダルが気に入っている寝床のひとつだった。
簡単に表現すればさびれた廃屋だったが、石造りの建物はひんやりとして気持ちよかったし、何より静かだった。
(それで……?)
シンドバッドの寝所から離れてからあと、自分がどうやってここに来たのか、思い出すことができない。
(なんだ…?)
ざわりと得体の知れない悪寒が肌を撫でて、ジュダルは知らず己の編んだ黒髪をぎゅっと掴んでいた。
もうとっくに手に馴染んだその形状を指でなぞりながら、ゆっくりと息を吐き出し、自分を宥めるように口の中で繰り返す。
(だいじょうぶだ、)
(だいじょうぶ、まだ、覚えてる)
(これさえ覚えていられれば、俺は、まだやれる)
(これさえ、あれば)
瞳に映した自分の黒髪に月の明かりが淡く差しこんだせいか、それともジュダルの願望か、ふと艶めいた髪が紫に染まったかのように見えた。
(…あいつさえ、いれば)
(だいじょうぶ、だ)
ジュダルの髪を優しく梳くくせに、いつまで経ってもなびかない男の、きれいな濃紫の髪。
瞼のうらをちらちらと掠めていくその色を追っているうちに、ジュダルは再び眠りにおちていた。
***
「ソロモンの代行者――あのマギの手が入ってから様子を見ていましたが、そろそろ改訂をしないと」
「シンドリアの一件は報告が来ています。あの子は“真実”を知ってもなお、“運命”を憎み、戦いを好んでいる。しかし、念を押しておくに越したことはない」
「……おや、ちょうどいい。帰ってきたようだ。我らが“マギ”が」
「…なんだァ? 何か集まりでもあった? ンなとこに勢ぞろいして…うおッ!?」
“改訂”という耳慣れない言葉が引っかかったが、どうやら組織の人間どもを欺くことには成功しているようで、ジュダルは何も聞こえなかったふりをして立ち並ぶ彼らを一瞥した。しかし頭の後ろで組んでいた腕を強く引っ張られ、身体が大きくよろめく。たたらを踏んで持ち直そうとした足を掬うように引っかけられて、ジュダルの身体は傍にあった大きなカウチソファへ投げ出された。柔らかなクッションの敷かれたそれに沈みこんだため衝撃はさほどなかったが、急に身体が振り回されたせいで自分が何をされたのかすぐに理解することができなかった。
「ッ…何すんだテメー、氷漬けにされてーのか、あっ…?」
まるでずっと前から決まっていたものごとのようにカウチの周囲を男たちが取り囲み、ジュダルの四肢にしっかりと指が絡みついていた。
ずるりと足から下衣が引き抜かれ、抱えあげられて剥きだしになった膝裏は背もたれに引っかけられ、男の滑りを帯びた指が大きく開かされた足の狭間の窄まりにぬるりと突っこまれる。
「ッッーー!?!? っ、あ、ぅあ、ッッ~~!!」
目の前が真っ赤に染まるような羞恥は、体内をぞぞっと這いのぼった強い感覚によって衝撃と惑乱に塗り替えられ、まるでジュダルの体内がどんな形をしているのか知っているような淀みのなさで蠢く指は、身体の芯をぎゅっとこわばらせるのに十分だった。それなのに硬くなった身体を強制的に弛緩させるように性器が別の男の口にしゃぶられ、中を抉る指は的確にジュダルの腰の奥を蕩かせる場所を知っていて。
「~~~ッう、ぅんんーーッッ…!! っふ、んぐ、ん、ッッ~~!!!」
どんなに声を殺そうとしても、唸るような啼き声はどうしても唇の端から漏れ出ていく。快楽主義者ならすぐに陥落してしまいそうなほどの手管だったが、その相手が誰かわかっているから、なりふり構わずすべてを拒絶してしまいたい気持ちと、今はそのときではないと自分を抑える気持ちの間で逡巡してしまう。しかしその時点で逃げなかったことを、ジュダルは何度も何度も後悔した。
「――ッッ!!」
後頭部がぐいと前倒しに固定され、舐めまわされて勃ちあがらされた己のペニスと、それをしゃぶっていた男の舌が動くさまを見せつけられる。その奥で窄まった後孔から抜き差しを繰り返す指までも、生々しく視界に映った。
「ッッふざけ、っひ、ぁ、う、~~~~ッッ!!」
耐えられず目を閉じれば、息も詰まるほど最奥が抉られる。蜜口に舌をぐりぐりと捻じこまれ、すべての体液を啜りとるように強く吸いあげられる。
どうしようもなく嫌悪しているのに、射精感が高まっていく絶望。
耐えよう耐えようと思っても、身体は感じきっているかのようにびくびくと跳ねて、抵抗する力は身体のどこにも入らなくて、耳をふさぎたくなるようなねばついた自分の泣き声が聞こえて。
「っふ…ぅ、う、んんッ――、っくそ、う、あ、あ、くッ…~~~!!」
びくっと腰が引きつって、とぷりとあふれた白濁が内股を濡らしていく感覚に視界がふっと暗くなる。そんなジュダルの身体を男たちの腕が掬い、体勢が変えられた。あたたかい背もたれに寄りかからされて、下顎を掴まれ顔を上げさせられる。はっと我に返り抵抗しようと眼前を仰げば、飛びこんできたのは“あの光景”だった。
「あ……?」
驚愕に見開かれていく目がすべてを理解する前に、背後で身じろぎする気配があった。
ジュダルの背をあたためていたのは背もたれなどではなく、男の胸板で。
ジュダルが座っていたのは先ほどのソファではなく、男の膝の上だった。
両の膝裏が掴まれて、広げられて、露わになった窄まりに熱を帯びた凶器が捩じこまれていく。
「ッ…~~~ッッ!!!」
ジュダルの顔は、惨劇を映しだした光の反射で赤く染まっていた。
喉から声にならない絶叫が迸り、いくら暴れても無力を思わせるばかりで、命令式をなぞる余裕なんてあるわけがなくて、それでも擦り切れそうな思考回路のなかでひとつ、頭をよぎったことがあった。
(もしかして、)
(これが、俺の、わすれたこと)
(あたりまえだ)
(今だって、できることならすぐに手放しちまいたい)
(たえられ、ない)
(ああ、もしかして)
(シンドバッドがあんなに怒ってたのも、これのせいか)
(こんなやつらの痕跡を、あいつに知られてたのか)
「―――――、」
(むりだ)
(正気なんて、たもてるわけ、ない)
ジュダルは幾度目か知れない“改訂”の意味を知り、そしてまたその記憶を失くしていった。
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