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二次創作女性向小説置き場 主にマギ(シンジュ)青エク(志摩雪及び雪男受) 18歳未満の方の閲覧はご遠慮願います
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ラプンツェルのいのちづな 2
「ラプンツェルのいのちづな 1」の続きです

早くしあわせにしてあげたいけどなかなかうまくすすめられないのでもうしばらくおつきあいください
※うっすらとですがモブジュ表現が入ります苦手な方はご注意くだしあ





拍手[27回]


 
 網膜にこびりついた親の亡骸。
 血に浸された床にこぼれた、長く結われた黒髪。
 ジュダルはこびりついて離れないその光景をなぞるように、髪結いにされるがままで無頓着だった髪を自分で編みはじめた。
(俺は、忘れない)
(親の最期も、その恨みも、マギに生まれた『運命』にだって)
(マギってのは強いんだ)
(すべてをぶっ壊せるはずなんだ、だから俺は)
(早く、見つけ出すんだ)
(俺の王を)
(運命に反逆できる、こんな世界変えちまえるぐらいの力を持った王を)
(俺は強いから、俺と同じ、いや、それ以上の)
 ジュダルは、自分が選ぶべき王を探した。
 各地で起きている争いは、腕の立つ人間を見つけ出すのにもってこいだった。
 とりわけ、『運命』を憎むほどの恨みを抱えた人間は、戦場においてこそ多く存在した。
(こいつは違う、)
(だめだ、こいつも違う)
 しかし、ジュダルがその力を認めて仲間に引きこんだ者は何人かいたが、迷宮を攻略できる者はなかなか現れなかった。
 恨みを探して、力を求めて、ルフの黒くくすんだ場所ばかりを飛び回って、編んだ髪は身体の成長とともに長くなり、募っていくのは焦りばかりで。
「ん……?」
 そんな頃だった。
 体内を何かがずるっと這ったような違和感に、ジュダルの眉がぴくんと不快げに跳ねた。
「またテメーか…!!」
 ジュダルの出した迷宮の扉から抜き足するようにそっと出てきた青年は、きりきりと眦を吊りあげたジュダルを見つけて苦笑いを浮かべた。
「あー…、バレたか」
「バレたか、じゃねーよッ! 勝手に俺の迷宮攻略してんじゃね――!!!」
 その青年は、ジュダルが組織に引きこんだ人間のために出現させた迷宮を以前も攻略したことがあった。 
 紫糸を編みこんだ長髪のこの男の名は、確か同行者がシンドバッドと呼んでいた。今回は別のところに飛ばされたのか、扉から現れたのはシンドバッド一人だったけれど。
「お前、またこんなところで遊んでるのか? 子どもには危ないぞ、家に帰りなさい」
「…テメー、まだ信じてねーのか…俺がマギだっつってんだろ! つーか子どもって、お前も大して変わらないだろ」
「…心外だな」
 ジュダルの指摘に口を軽く曲げたシンドバッドだったが、ふと何かを思い出したように宝の詰めこまれた布袋に手を突っこみごそごそと漁りはじめた。
「ほら、いいものをやろう」
 迷宮の中で見つけてきた、とシンドバッドが袋から取り出したのは、不思議な色をした宝石で装飾が施された、手のひらに収まる程度のドーム型の装置だった。
「どうやら魔力で動くタイプのものらしい。魔法使いの卵なら、動かせるだろ?」
 深い藍色をしたきれいな石にじっと見入っていると少しずつ石の持つ色が変わっていって、万華鏡のような色の連なりにジュダルは釘付けになった。数秒遅れで耳に届いたシンドバッドの言葉にはっと我に返って、なんとか眉間にぎゅっと皺を寄せる。
「だから、魔法使いの卵じゃなくて、マギだっつーの! それに、俺が出した迷宮のもんなんか珍しくもなんともねーし、」
 どうやらシンドバッドは未だにジュダルがマギであることを信じていないようで、何度目かのやりとりにシンドバッドを睨みつけても何の効果もなく、少し虚勢を張った魔法使いの子どもとして扱われていた。
「でも、これがどんな命令式で動いているか、気になるだろう?」
「………ちょっとだけ、な」
 結局好奇心をくすぐられて、迷宮道具の遊び方をああでもないこうでもないと試して、また我に返って、ジュダルが怒って。
「ッ…こんなモンより、俺の魔法のほうがすげーし!」
「そうか、お前魔法が使えるんだったな。なら、ちょっとくらいお子ちゃまでも遊んでやる」
「~~ッなめんな!」
 なんてことないやり取りから戯れみたいな喧嘩が始まって、追いかけっこになって、ジュダルがへとへとになるとシンドバッドは『またな』と言って仲間の元へ消えていった。
(くそっ、)
(なんなんだ、あいつ)
(馬鹿にしやがって)
 それでも迷宮道具や迷宮周辺の植物生物との遊び方を教えてくれるのはシンドバッドくらいだったから、ジュダルはいつのまにか彼の手のひらに視線を釘付けにさせられているのだけれど。
 度々ジュダルの目の前に現れては、嵐のように引っ掻き回して消えていくイレギュラー。
 顔をつきあわせていくうちに、ジュダルがなんだかんだ言ってほだされているのは明白だった。
(あいつなら、王にしてやってもいい、かも)
 その時は、何が見えなくなっているのか気づきもしなかった。
 二人の間に存在するはっきりとした隔たりを思い知ったのは、ジュダルが浮かれたその一言を発した後のことだった。
「俺と一緒に、世界をぶっ壊そうぜ!」
 ジュダルの申し出は、すっぱり断られた。
 シンドバッドは、今まで見たこともないくらい真面目な顔をしていた。
 その瞳の中にはっきりとした光を感じて、ジュダルはようやく思い知ったのだ。
 彼の、ルフの白さを。
 色相の壁を。
(そうか、)
(こんなに重要なことが、俺は見えてなかったのか)
(こいつは、運命を憎んでない)
「………、」
(そうだよな、そうか)
(こいつは、俺と違う)
(徹底的に、違う)
「ジュダル、よく聞け」
 どこかぼんやりとしたジュダルの意識を引き戻させるように、シンドバッドが肩を力強く掴んだ。
「…俺のことを信じるなら、お前は最初からすべてを疑ってみたほうがいい。――特に、目をそらしたくてそらしたくて、仕方のないことを」
「………」
(なんだよ、それ)
(俺が目をそらしてることなんて、ひとつも)
 シンドバッドのその一言はぽつりとジュダルの心に波紋を落として静かに静かに広がり、やがて芽吹いた猜疑心は少しずつ形をとりはじめた。
(俺が、目をそらしてること)
(つらくて、かなしくて、見ていられないこと)
(そんなの、たったひとつしかない)
 ジュダルはこっそり探すことにした。
(すべてを疑ってみなきゃいけないんなら、俺は今、すべてを信じちゃいけない)
(この目で見たもの以外は、すべて)
 組織の書庫の奥の奥、侵入を禁じられていた『歴史の間』。
 誰にも見咎められないよう、形跡を残さないよう、計画に計画を重ねて忍びこんだジュダルが数年ぶりに見た両親と、その惨劇の映像は。
「……――ッッ、」
 ぶわりと全身の毛穴が広がって、冷たい汗が噴き出る。
(ちゃんと、見るんだ)
(目をそらしたくて、そらしたくて、仕方のない、でも、一番最初の、一番大切なこと)
 真実は、以前と変わらず目の前に映し出されていた。
「――!」
 しかし、目を凝らしてはじめて、ジュダルの脳裏を既視感のようなものが掠めた。
(なんだ、この、いやな感じ)
(俺はいったい、何に――)
 何度も脳裏に繰り返された親の姿に、ブレはなかった。
「―――、」
 父と母を手にかけた男たちの姿に、ジュダルは釘付けになっていた。
 体型も顔も暗い色の装束で判別しにくくなっていたが、その耳の形や歩き方、何よりそのくせのある魔法の命令式が、ジュダルに受け入れがたい現実を突きつけてきた。
(そんな、まさか)
(俺の親を、ころしたのは)
(ころしたのは、)
『お前は最初からすべてを疑ってみたほうがいい。――特に、目をそらしたくてそらしたくて、仕方のないことを』
 シンドバッドのたった一言で、ジュダルは知る。
 ジュダルを生かしたのも、親を殺したのも、組織だと。
 すべて、ジュダルを堕転させ、組織に繋ぐための茶番だと。
(そんな、おれは、まさか)
(ずっと、だまされてたのか)
(ずっと、ずっと、)
(最初から)
「――――ッッ!!!」
 慟哭が喉からあふれて絶叫になってしまわないうちに、不安定になった体内の魔力が『痕跡』を残してしまわないうちに、ジュダルはそこから離れることだけ考えるようにして、ずっとずっと遠くへ飛び去った。
 
 
 
 
 
 退路は絶たれた。
 背を預けていい場所なんて、最初からなかったのだ。
 でも、堕転したジュダルには進む道もなかった。
(俺にはもう、何もないんだ)
(……バッカみてえ)
(あいつの言葉に耳をすませたら、少しはあいつみたいな色に近づけるとでも思ってたのかよ、俺は)
(真っ黒なのは変わらないじゃねーか)
 どっちみち、ジュダルの恨む相手は変わらないのだ。
 運命と、親の仇。
 仇は今までよりずっと身に迫ったものに変わってしまったから、ジュダルの身に巣くう闇はぐっと深さを増すだろう。
 息をひそめて、殺意をおしこめて、すべての準備が整うまで、それを運命への恨みへすり替えてやり過ごして。
 そうやって組織を内側から破壊しようと企むことが、その時のジュダルにとって唯一踏み出せそうな一歩だった。
 その足首をふっと掴まれたような気がして振り向けば、ジュダルが近づこうとしていた淡い光が何かを訴えるようにちかちかと明滅していて、暗く澱んでいた瞳に少しだけ悲しげな色を流しこんだ。
 それはほんの少し前まで、ジュダルが手を伸ばそうとしていた光。
(あれに、手が届けばいいと思ってたんだけどな)
(差し出したかった手まで、なくしちまったけど)
 その瞳に光がしみこんでしまう前に、ジュダルはくるりと踵を返して真っ暗なほうへ足を踏み出した。
「………、」
 ふと、長く垂らした髪に目が落ちる。
(大丈夫、俺はちゃんと覚えてる)
(血の色も、親の悲鳴も、憎しみも)
(身体の芯から黒ずんだ身体でも、できることはいっぱいある)
(運命なんて、一人でぶっ壊してやる)
 暗闇の中でもほんの少し光が見えることを期待して深淵を覗いたら、もっとずっと暗く深いところまで、引きずりこまれてしまったけれど。
(覗く前までよりはずっとマシだと思えるのは、きっと)
(お前のおかげだよ、シンドバッド)
 振り返らず歩きだしたジュダルにとってそれだけがたったひとつ、光とも呼べないくらいの救いだった。
 
 
 
 
 ジュダルは今まで以上に力を求めはじめた。
 迷宮を出現させて、攻略できる者も現れるようになった。
 本当の心を隠して、組織と手を組む姿勢をとりながら、自分に傾倒する存在を増やして。
 それでも出現させた迷宮を目にしながら、感傷が胸を掠めないわけでもなかった。
 思い出すのは、自分勝手な迷宮攻略者との喧嘩腰の応酬と、見たことのない世界を見せてくれる男の手のひら。
(シンドバッドさえ頷けば、俺はまたあそこに戻れるのに)
(組織を壊滅させて、お前と世界せーふく、いや、だめだ)
(俺は真っ黒で、もう戻れなくて)
(あいつは真っ白で、分かりあえるわけがなくて)
 それでも、思わないわけではなかった。
(あいつも堕転したら、一緒にぶっ壊せるのに)
(そしたら絶対に俺はお前を選ぶのに)
 そんな絵空事を夢に描きながら、ジュダルはそれが叶えられないと知っていた。
(だから、いいんだ)
(俺は、誰にも頼らない)
(一人で全部やってみせる)
(手をとりたいのは、でも伸ばせないのは、たった一人だから)
(だから何度でも、俺は)
(俺は―――)
 
 
 
 
 
 どうして忘れていたんだろう。
 アラジンに“変なもの”を見せられるまで、こんなに大切なことを。
(俺を動かす唯一の道しるべみたいなものだったのに、どうして)
 記憶を取り戻せば、その繋ぎ目に違和感を感じる箇所がいくつもあった。
 一見自然なように見えて、記憶の戻ったジュダルだけがわかるような不自然な記憶の途切れ目。
 それが何を意味するか考えて、ジュダルは苦い笑みを浮かべるしかなかった。
(……俺はまだ、全部思い出せてねーってことかよ)
 それはきっと、ジュダルがどうしてこんなに記憶に混乱を抱えているのか、原因が未だわかっていないことと関係しているのだろう。
 ひとつ、曖昧に思い出せることがあった。
 物事の前後があやしくぼやけていても、その光景は思い出せた。
 それは、シンドバッドが初めてジュダルに触れた夜のこと。
 その記憶を大切になぞるように、ジュダルは暗闇の中で目を閉じた。









 視界の端がひどくぼやけて、目に映るすべてに薄暗い靄がかかったかのように曖昧だった。
(なんでだろう)
(なんか知んねーけど、今すっごく、シンドバッドにあいたい)
 自分がどこにいるのか、どうしてここにいるのか、そういった疑問よりもずっとずっとその思いのほうが強くて、とにかくシンドバッドのいそうな場所をふらふらと飛び回って。
 何箇所目かで宿に泊まっている濃紫の髪を見つけて逡巡することなく部屋に忍びこんだけれど、ジュダルを見つめるシンドバッドの目は静かなほどに激しい怒りを湛えていた。
「……? シンドバッド、なんで怒ってんだ…――ッッ!?」
 いきなり両肩がぐっと掴まれて、そのままベッドに倒されて、思わず息を詰めて身体をこわばらせたジュダルの首筋に、焼けつくような痛みが走った。
「イッ…~~!! なっ…にす、ざけんな、ぁ、アッ…!?」
 鋭い痛みのあとでぬるりと肌の上をすべった舌の感触に噛みつかれたのだと気づいて抗議の声をあげ、不利な体勢を変えようとシーツの上でもがくジュダルの下衣はいとも簡単に引き抜かれる。シンドバッドが迷いなく指を這わせたのは、ジュダル自身でも触れたことのないような尻の狭間で。
「な、ッッん――…! え、やだ、っう、ぃう…~~っ、」
 蕾の凹凸を指の腹でぐるりと一撫ですると、すぐに内襞を掻き分けるようにしてぐっと指が押しこまれた。侵入してきた異物を誘いこむようにうねった体内に、シンドバッドが何かを堪えるように奥歯を強く噛み締めたけれど、ジュダルがそんなことに気づく余裕などあるはずもなくて、腰の奥に差しこまれた快か不快かもわからないような異様な感覚に耐えるので精一杯で。
(なに、なに、)
(なんで)
 まだ頭もはっきりしていないうちに惑乱がジュダルの脳内を引っ掻き回して、でもシンドバッドの指に体内を探られていることは確かにわかって、恥ずかしくて仕方ないのに唇からこぼれるのは制止の形を失った情けない声ばかり。
「っふ、い、アッ…なん、…ッんで、ッッひ、うあぁ…――っ!!」
 やっとのことで言葉になった問いが返されることはなく、何度も指が身体の内側を行き来して、ずるっと引き抜かれたと思ったら指よりもっとおそろしい熱がジュダルを犯していった。
「ッう、…うぅ~…っ…は、うぁ…、」
(あつい、いたい)
(なんだ、これ)
 生理的にぼろりとこぼれた涙は頬を伝い、苦しくて苦しくて開いたままの唇からは腫れたような赤い舌がちらりと覗いていた。
 体内に咥えこまされた熱と、自分ではない者の鼓動と、触れあった肌の生々しさに、ジュダルの頭は一瞬ぐにゃりと歪んだように痛みを感じた。
「――ッッは、」
 記憶の奥底に何かが映りこんだような気がしてその正体を探ろうとすればするほど、痛みは鋭くなって頭の中を真っ白に引き戻そうとする。
 それに抗うように、ジュダルは手がかりになりそうな記憶の糸に手を伸ばそうとした。
(なんで、)
(なんで俺は、ここにいるんだ)
(なんで、シンドバッドに会いたいと思ったんだ)
(なんで、シンドバッドはこんなに怒ってるんだ)
(なんでシンドバッドは俺に、こんなことをするんだ)
(なんで俺は“こんなこと”を、どこかでしたような気がすると思うんだ)
(なんで、)
「っあ…!?」
 ずきりと頭が割れそうなくらいの痛みが差して、それとほぼ同時に繋がった腰がぐっと突きあげてきて、焼けつくような快感と衝撃に痛みが散らされる。
「あ、アッ…んんぅ…ッふあ、ア…っン――…!!」
(なんで)
 腰をぐずぐずに融かしていく熱の気持ちよさに、痛覚が逃げこんでいく。
 ジュダルの中に残ったのは、目の前がじんじんと痺れそうなくらいの激しい快感と、身の内を静かに浸していく哀しみだった。
(シンドバッドに会えた、のに)
(まだ、何も思い出せてないはずなのに)
(なんでこんなに、かなしいんだ)
 そんな思考すら許されないほどにシンドバッドが繋がりを深く求めてきて、ジュダルはすべてを放棄させるようなよろこびに、勝てなかった。
「――……ッッ…、」
 理性を手放したジュダルをどこかいびつにこわばった表情で見つめながら、シンドバッドはその身体にしっかりと残された“誰かの痕跡”ひとつひとつを確かめるように指でなぞっていた。




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