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二次創作女性向小説置き場 主にマギ(シンジュ)青エク(志摩雪及び雪男受) 18歳未満の方の閲覧はご遠慮願います
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ラプンツェルのいのちづな 1 ※注意書き必読
※いろいろ捏造しまくってます心の広い方のみ閲覧ください
※話が原作にかかわってくるところがあるのでアニメ派の方は注意です
※110夜のアレあたりからの話です
※どうしても原作でジュダルちゃんを幸せにしたくていろいろ考えてたらこうなりました当然ながら続きます




拍手[26回]






『……ッは、』
 交わす言葉がなくなったのは、いつからのことだろう。
『っんむ、う、ッンン、っは…!』
 窒息しそうなくらいになるまで唇は解かれなくて、舌は腫れぼったくなるまで吸われて噛まれて、口腔を探るのと同じタイミングで体内を苛む熱がぐっと奥に突きあげてきて、苦しくて苦しくてたまらないのに腰の奥は溶けだしてしまいそうに熱くて。
『ン、ン、ひッ…うあ、ア…~~ッッ!』
 名前ひとつ呼ばないし、呼ばれない。
 這いのぼってくるぞくぞくした感覚にいくら畏れを覚えても、ジュダルが爪を立てて縋るのは男の肩でも背でもなく、いつも宿屋の白いシーツで。
『っは、ぁ、あッ…ぅ、んン…っ!!』
 舌の上にその名前は載っている。
 宙を描いた手は、思わずそちらに手を伸ばそうとする。
 でもいつも、ジュダルは自分から男を欲することができずにいた。
 沈黙のまま夜を遂げるようになった理由だけは、ちゃんと覚えているから。
(何も言わなければ、否定の言葉も聞かなくて済む)
(それなら、)
(呼ばなければ、手を伸ばさなければ、――こいつを、欲さなければ)
(傍にいることは、できる)
『ひ、ッあ、あ、~~ッッ…!!』
 がくがくと激しく揺さぶられて、見開いているはずの目の前が眩く光る。きゅうっと身体の芯に力がこもって、吐き出したくて堪らなくなっていた熱が爆ぜて、どくりとあふれだした。
『っは、はぁ…ぅ、んッ…は、はッ…、』
(なんでだろう)
(こいつの近くにいると、すげえ苦しいのに)
(なんで、俺は)
『ッひ、』
 そんな自問は、熱に痺れた余韻を残す体内をぞっとするような硬さでぐるりと掻きまわされた衝撃で、思考の外に追い出された。
 ジュダルがぼやけた頭で考えられるのは、そこまでが限界だった。



『………、』
 シーツの上に広がる自分の長い黒髪と、それをゆるゆると梳く男の節ばった指をその目にぼんやりと映していると、ジュダルはふと、今まで考えたことのないような疑問が頭を掠めていくのを感じた。
(なんで、俺は、髪なんか伸ばしてるんだっけ?)
(毎日毎日、ご丁寧に編んでまで)
 シンドバッドの傍にいると、奇妙な違和感を覚えることがあった。
 こんな疑問が湧くのも初めてのはずなのに、前にも同じようなことを思ったような気がする。
 たとえるなら、それは、今の自分の存在をぐらぐらと揺すられているような、心許ないような、何もかもが不確かに思えるような、そんな類の違和感だった。
(俺は、何のために髪を伸ばしているんだっけ?)
 さらさらと優しく髪を撫でる男の指の心地よさに、すべてを忘れてしまいそうだ、と思った。
(すべて?)


 俺は、何を忘れたっていうんだ?


 はっと目を覚ませば、視界いっぱいに星空が広がっていた。
 煌帝国の城の屋根の上でうたた寝していたら、いつの間にか夜になっていたようだ。
「………」
 見ていた夢を反芻して、くっと唇が笑みに歪む。
“何を忘れたっていうんだ?”
(何もかもだろ)
(俺は、何も覚えちゃいなかった)
 髪を切ったことがないのは、親と同じでいたかったから。
 忘れたくなかったから。
 でも、その記憶も曖昧になっていつしか消えていった。
 それを、あの“存在するはずのないマギ”に見させられたのだ。
(全部、思い出した)
(髪があんなに大事だったのに、なんで大事なのかは覚えていなかった)
(運命を憎んでいるはずなのに、その運命を、俺は、覚えていなかった)
(それにしても、お笑いだ)
(俺に、あんなカワイソーな過去があったなんて、な)
「……早いとこ、見つけねーとな」
(運命に逆らう、王を)
(俺の王を)
 ジュダルは瓦屋根からするするとすべり降りると、呼び出した絨毯に飛び乗り、星の淡い光からも逃れるように闇の深部へと溶けていった。


***


「マギ殿、そんなところに登っては危ないですよ…!」
「ん、ちょっとまてよ、お、よしとれた、ッわ…!」
「うわっ…! ちょ、もう…私たちがいなかったらどうなっていたか、わかっているんですか?」
「っあー、びっくりした。…別に、おまえらが助けてくれるんだから、いいじゃん」
「マギ殿…」
 歳を五つ数えるくらいまで、ジュダルは組織の人間たちに手厚く愛されて育った。
 マギの性質なのか早熟なところがあり、魔法の成り立ちや命令式だけでなく、一般的な知識も五歳のそれとは思えないくらいに異常な吸収の速さを見せていたが、情操面はごく普通の、いやそれ以上に組織にこまごまと行き届いた愛情を注がれていたから、疑うことを知らずに組織の人間を信頼し、すべてを預けて、傍目に見れば幸せな日々を送っていた。
 一般的な家族というものの概念も知っていたから、今の生活が少しそれと異なることがわかると、ジュダルは当然彼らに尋ねた。
「俺の父さんと母さんはどこ?」
「なんで俺には二人ともいないの?」
 もう少し大きくなったら教えてあげますよ、と彼らは優しく返した。
 しかし、平和で居心地の良い時間は、その問いがジュダルの口から出たことで静かに形を変えはじめた。
 組織が、『時が来た』ことを判断したからだった。


「なあ、これ見ろよ! すっげーだろ!」
「…? ただの桃ではないですか。…! また、木に登ってとったのですか? 私たちが見ていないところで?」
「ちっげーよ! 俺が、魔法でとったの! なあ、すごいだろ? 俺、大きくなったろ? だからそろそろ教えてくれよ、俺の父さんと母さんのこと!」
「……そうですか…」
 では、教えましょう。貴方の両親のことを。
 そう言って彼らがジュダルに見せたのは、紛うことなき『現実』だった。
「………ッッ…、」
 映し出される凄惨な映像。
 自分と思われる赤子の小さな指を大切そうに握っていた父の手は今では血に塗れて、ぴくりとも動かなくなった。
 父と母に手をかけた男たちはしかし、ジュダルのよく知る人物によって打ち倒されていった。
 両親の仇を討ち、血の海から赤子を抱きあげたのは、ここにいる組織の人間だった。
 同じ映像を見ていたその男は、声もなく目を見開いたままのジュダルのこわばった肩をそっと抱き、憐れむような声をガタガタとふるえる少年の耳に落とした。
「マギのお前を産んだ親は、こうなる運命だったのだ」
「マギだからお前も狙われた、親も殺された」
「名も知らぬところにさらわれるところだったのですよ、マギ殿は」
 そう言い含めるようにゆっくりとジュダルに話しかけ続ける男の後ろで、真っ黒な金属器が黒いルフを吸ってざわめいていた。
「マギとして生まれた運命が、憎いですか?」
「逆らいたいとは、思いませんか?」
「堕転は、反逆の証です」
「そして、堕転したマギなど、今まで存在しなかった」
「運命を呪ったマギなど、その過酷な運命を前にして、驚くべきことに一人もいないのです、マギよ」
「マギの貴方なら、運命なんて消し去ってしまえるかもしれないというのに」
「親を奪われても『運命だから仕方ない』と、胸に湧く疑問も見ようとしないで、まったく別の人間を救うことで代わりを埋めているだけで、いいと思いますか?」
「運命、それ自体を呪い、反逆してやりたくはないですか?」
 恐怖と困惑と、初めて生まれた憎悪を、周囲の大人たちがかきたてていく。
 真っ白だったルフがほんの少しくすんだのを、彼らは見逃さなかった。
「~~~ッッ!!」
 声にならない慟哭が迸った瞬間、黒い金属器から放たれた『魔法』はジュダルの身体に絡みつき、体内に潜りこんで黒い種を蒔いた。
 魔力の気脈に根を張ったそれに抵抗する術が、生まれて初めてのどす黒い感情に支配された今のジュダルにあるはずもなくて。
「さあ、共に探しましょう。運命に反逆する王を。“黒きマギ”よ」
 彼のルフは、真っ黒に染まっていた。
“偉大なる父”の意志と称した呪縛によって。
 彼らは、ずっと待っていたのだ。
 ジュダルが、すべてに傷つくほど優しい人間に育つことを。
 真っ白でやわらかい心ほど、黒く染まれば進行は早いということを。
 黒いマギの誕生に組織内部が興奮に沸くなか、その中心にいる少年の目だけが昏く、静かに憎しみの焔を宿していた。





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