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二次創作女性向小説置き場 主にマギ(シンジュ)青エク(志摩雪及び雪男受) 18歳未満の方の閲覧はご遠慮願います
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ラプンツェルのいのちづな 番外編
「ラプンツェルのいのちづな」その後のおはなし





拍手[9回]



***



「………」
 ふっと軽くなった身体につられるようにして瞼をゆっくり押しあげれば、視界いっぱいに広がったのはシンドバッドの緊張したような、安堵したような、控えめで不思議な笑顔だった。
「………?」
 むずむずと背をわずかに温めてくるような慣れない視線と見つめあうこと数秒、ジュダルはやっと自分が今までどこにいたのか、何をしていたかを思い出した。
「あ………」
(そうか、俺は)
(こいつに、ぜんぶ)
「………っ、」
“あちら”で言われたばかりなのに、知らず身体にぎゅっと力がこもってしまう。
(あれは、本当にあったことなんだろうか)
(俺の、願望に過ぎないんじゃないのか)
 頼りなく揺れたジュダルの瞳にじっと視線を注いでいた男の手が、しっかりとジュダルの手のひらを握り直す。
「ジュダル」
 ともすれば逸らしそうになってしまう臆病な視線を繋ぎとめるような、不安を掬いとって包みこむようなあたたかい声。
「おかえり」
 耳に、肌にしみこむその温度が、教えてくれる。
(ああ、夢じゃない)
(俺は、この手を取ってもいいんだ)
力強く、やわらかく握りこまれた自分の手を、ジュダルは自分から指を絡めて繋ぎなおした。







 夢を、見た。
 身に着けていたものは奪われて、無防備な肉体を縮こまらせることすら許されず、すべてを暴かれたまま、見たくないものを押しつけられて、捩じこまれて、一番見たくないそんな自分を、目の前に突きつけられて。
「――――ッ、」
 いつもと違う、やわらかな寝具の上で飛び起きて、ジュダルはべったりと脂汗ではりついた夜着を脱ぎ捨てた。
 どこか外で水浴びでもしたい気分だったが窓から見える景色はまだ真っ暗で、それでも部屋から出ようものならシンドリアのおせっかいな従者たちが駆けつけてくるに違いない。幸い備え付けの風呂場はあったから、ジュダルはそちらで軽く汗を流すことにした。
(……だめだ)
 機械的に水を浴びているうちはよかった。しかし、身体の不快感は消えても、また寝具に戻り目を閉じることを考えれば、さっき見た悪夢が手をこまねいている気がして。
「………、」
 ジュダルは自分が欲しているものが何なのか、わかっていた。
 でも、その欲しいものを得るために動くことができなかった。
 ジュダルは、思い出してしまったから。
 ずっと、考えないようにしていた、考えたくなかったそのことを。
(シンドバッドのとこに行けば、変な夢もきっと見ない)
(でも、)
 ずっと、あいまいだった記憶。
 すべてを思い出した今、あらためてシンドバッドに抱かれた一番古い記憶を引っぱり出せば、新たにわかったことがあった。
(あの日、あいつは怒ってた)
(俺が、あんなにあいつに会いたかったのは、……あんなこと、された後だったから)
 自分の行動が腑におちると同時に、むくりと湧いた確信は鋭い刃となってジュダルの胸を突き刺した。
(そしてきっとあいつはあのとき、――俺が何をされたか、知ってたんだ)
(だから、怒って、あんなこと)
「――――ッ、」
 言い知れない恐れが、ぞくっと背を舐める。
(だめだ、こわい)
(どこにも、いけない)
 足の向ける先を失った絶望は、これが初めてではなかった。
 だから、気づいたのだ。
(そうか)
 寝具に向かいかけて止まったままの足を、ジュダルはくるりとドアのほうへ向けた。
(こわい、けど、でも)
(でも、少しだけ)
(今までとは違うって、信じたいから)
 すべてを見透かした男は、それでもこちらの手を確かに握ってくれたから。
 先ほどとは別の意味で汗ばんだ手をぎゅっと握りこみ、ジュダルは客室のドアノブに手をかけた。



「どうした? ジュダル。…眠れないのか?」
 ベッドの上で上体を起こし書類に目を通していたらしいシンドバッドの問いにうまく答える余裕なんてなくて、ジュダルは無言のまま男の隣に潜りこんだ。
「……っ、」
 寝具の中はあたたかくて、欲していたものがここにあると思うともうだめで、目の前に置かれた自分の手がふるえているのに気づいてジュダルはぎゅっと目を瞑った。
(ああ、よわくなっちまった)
(こんなの、今までなら抑えこめたのに)
「ジュダル?」
 布団の中で丸くなったジュダルの身体を抱き寄せる腕の強さに、衣ごしに伝わる体温に、耳元に入りこむわずかな息遣いに、ジュダルの心を繋ぎとめていた何かがほろりと崩れ去ってしまう。
「――っ…!」
 あふれたのは、身勝手な欲望。
 身体の芯がじんと熱くなって、布一枚隔てた体温じゃ足りなくて、肌と肌が直接触れることばかり考えてしまう。身体の奥深くまで暴かれて恐怖を詰めこまれた身体は、そこをあたたかなもので埋めてほしがっていた。今まではそれを見ないふりをしてやり過ごせばよかった。誰かにあたたかいものを与えられなければ進めないような弱い自分を認めるなんて、絶対に嫌だった。
 でも、今は違う。
 心のどこかで、ジュダルは欲してしまっている。
 それが、どれだけ自分勝手な劣情だと諌めても、今熱を上げていく身体が何よりの証拠だった。
「――っ…あ、…あ……、」
 こんなにも生々しくて、自分本位で、でも、止めることができない。
「――ッくそ、バカ、ふざけんな…!!」
「痛、ちょっ、ジュダル…暴れるな、何……ん?」
 泣きそうな声で罵倒しながら、腕の中で少しでも距離を取ろうともがくジュダルを何度も抱き直そうとしているうちに、シンドバッドはジュダルの身体の変化に気づいたらしい。ジュダルが暴れはじめた原因を知った上、己を突き放そうとしているくせにいつまで経っても胸板をぎゅっと握りこんだままの手のひらを見てしまっては、シンドバッドは破顔せずにいられなかった。
「…ジュダル、……?」
 俯いた顔をこちらに向かせようと顎の下に手を差し入れ、ゆっくり上向かせれば、想像していなかったジュダルの表情にシンドバッドは眉をひそめた。
(なんでこんな、絶望したような)
 ジュダルは、泣きそうな顔をしていた。
 しかしそれは、身体の反応やそれを気づかれたことによる羞恥によってなどではなく、どこか有罪の判決を待つ囚人のような、諦念と絶望の色に近かった。
「――ッッ、」
(馬鹿だな、)
(そんな顔で、欲情されたら)
 ぞくぞくと背を駆けあがる衝動を抑えきれず、シンドバッドはジュダルの頭を抱えこみ、逃げられないようにして唇を貪った。
「…っン…、」
「ッッぅ…――!? っふ、ぅ、ンン…ん、む…ッふ、ン…~~~っ!!」
 歯列を割り、舌を捩じこんで、歯の裏をぞろりと舐めあげて、やわらかな口腔の肉を甘噛みして。
 身体の中心に灯った性感をむりやり引きずり出すようなキスに、ジュダルの唇は引きつったかと思うと、そこから嬌声混じりの嗚咽があふれはじめた。
「ッうぅ~~…っひ、ぅ、んむ、…う…~~~ッッ!」
「!? おい、ジュダルッ?」
 くしゃりと重なっていた唇が歪み、ぼろぼろと大粒の涙をこぼしはじめたジュダルにさすがにどきりと胸が痛んで、シンドバッドはおろおろと涙に濡れた頬を手のひらで優しく擦りながらその瞳を覗きこんだ。
「ッ…おま、おまえ、…っサイテー……ッおれが、せっかく、せっかく我慢して、ッッ…」
 キスされる前より身体はずっとずっと熱くなっていて、完全に戻れないところまで連れてこられて、もう目の前の人間に縋るしかないとわかっていても、責めるように男を詰ることしかできなくて。
「………」
 そんなジュダルを見て、シンドバッドは困ったように笑って言った。
「ジュダル。なんで、我慢するんだ?」
「ッッ…!」
 その言葉を聞いてギッと恨むように泣き腫らした目で睨まれても、シンドバッドにはすべてが愛されている証にしか見えなくて。
「俺は、我慢する気なんてないぞ。――お前が、本当に俺でいいのなら」
 自分の業をどこまで曝しても、ジュダルがそれを見せてくれるのかと考えれば喉がからからに渇いたけれど、今この瞬間だけでもこんなに思われているのだと思うとそれで十分すぎるくらいで、もう隠す気にはならなかった。
「ッッ……お前じゃなきゃ、こんなんならない」
(そうだ)
(俺は、こいつに言ったことなんてなかったんだ)
(その前に、知ってしまったから)
(こいつは、俺とは違うって)
 シンドバッドの言葉尻に自嘲の色を見つけて、ジュダルはやっと自分が何も伝えていなかったことに気づいた。
 それでも言葉を選んで精一杯ひねり出した言葉は、やっぱり恨みがましいような、拗ねたようなものになってしまったけれど。
 シンドバッドにはちゃんと伝わったようで、まだ乾ききっていない頬を大きな手のひらがゆっくりと撫でていく。
「なあ、ジュダル。……俺が初めてお前を犯した時、覚えているか?」
「ッッ、」
 びく、とこわばった身体を、そんな資格はないとわかっていてもどこか自分の痛みのように感じながら、シンドバッドはジュダルの答えをじっと待った。
 この部屋に来る前、ジュダルがまさに考えていたことだったから答えは決まっていたのだけれど、言葉にするのに時間がかかってしまう。
「……あいにく、どんだけ頭ン中がめちゃくちゃでも、忘れらんなかったよ」
 やっと出たセリフは揶揄するような笑みとともにこぼれて、しかしその歪みにシンドバッドの唇が触れれば、そこから伝わってくるものにじわりとまた視界がぼやけた。
(ずるい、)
(なんでこんな、ほしいものばっかり)
「………酷く扱った自覚は、ちゃんとある。……それでも、俺がいいと?」
 そう今一度念を押されて、ジュダルは胸の内をぐるぐると渦巻いていた問いがあふれるのを抑えられなかった。
「ッッ……なあ…お前は、ああいうのが趣味なの? それとも虫の居所が悪かったとか? それとも、ただ単純に、おれの、こと」
(だめだ、口元がこわばる)
(全然、平気な顔で言えない)
 言葉に詰まってしまったジュダルの口元をすぐにシンドバッドが親指でそっと撫でて、眉を下げたままの笑みを浮かべた。
「そんな悲壮な顔をするな、ジュダル。たぶん、お前の考えている逆だよ」
「?」
「……あの夜、何があったのか一目瞭然のお前を見て、理性が吹っ飛んだ。…あのときはまだ自覚もなかったけれど、それなのに、一人前に嫉妬したんだ。怒りで目の前が真っ赤になった。……確かめずには、いられなかった。お前が、何をされたのか」
 身体は、衝動的に動いていた。
(こいつは、何をされたんだ)
(どうやって)
(どんな風に)
「…それだけじゃない。お前が、なんで俺のところに来たのか、わからなかった。何もなかったかのような顔で、それを見て、俺が何を思うかも、もしかしたらわかってここに来たんじゃないかと思った」
 助けを求めて来たのだと思えるような状況ならまだ良かった。
 あのときのジュダルは、平然と、何もなかったような顔をしていた。
 べったりと、他人の痕跡を残しながら。
(なぜ、俺のところへ来た)
(見せつけるために?)
(どうして?)
 記憶を失くすほどの責め苦を与えられているのだと、どうして気づけなかったのか。
 無自覚の嫉妬なんて身勝手なものに囚われて何も見えていなかったのだと知ったのは、本当につい最近、ジュダルのルフにすべてを教えられてからのことだった。
 断罪されるべきはこちらのほうなのに、それすら知らずにこんなにも自分を思ってくれているのだと思えば、告白せずにはいられなかった。
「……すまなかった。許してくれなくて、当然だ。俺は、お前に優しくできなかった。…お前が誰かの痕跡をくっつけて潜りこんできたってだけで頭はぶっ飛んで、お前をその場に繋ぎ留めることばかり考えて……話せば話すほど、情けないことばかりだな。……本当に、これでもお前は俺を選ぶか?」
 いつの間にか逸らしてしまった視線をジュダルに戻せば、彼は涙の余韻を残した目を不思議にぎらつかせて、怒ったようなその目で挑むように笑った。
「……ハッ、何言ってんの、お前。…逆だったら俺も、同じことすんだろ」
 シンドバッドが告白したものが、罪だとはジュダルには思えなかった。
「え…?」
「っ…わかれよ。ッッ…お前じゃなかったら、ぜってー許さねえよ。当然だろ?」
 だから、自分も、ちゃんと伝えるべきだと思った。
 自分の中を探って、できるだけ的確に、きちんと伝わるように。
「ッ…そんなんで、俺が引くと思ったのかよ」
(だって、)
(そんな、嫉妬に狂ってたなんて)
(執着されてた、なんて)
 それでも『とんだしあわせものだ』なんて、可愛げのあることは一つも告げる気はなかったけれど。
「ジュダル…」
 降参だ、と小さくこぼしたシンドバッドの唇に、ジュダルはこれでおあいこな、と呟いてから思い切り噛みついた。





 夜着を脱ぎ去ったジュダルの内股にシンドバッドが手をかけ、ぐっと開かせる。
「ッッ…、」
 シーツの上に縫いとめ、押さえつけるようなそれに、ジュダルは思わず小さく息を詰めた。
 曝されているのはシンドバッドの眼前だとわかっているのに、ちらちらと悪夢の名残が視界を過ぎるのだ。
「っぅ…ん、…う…ッ…!」
 太腿の内側に舌が這わされて、ぴくっと肌が跳ねる。それが怯え混じりのものだと気づかれないように、ジュダルはなんとか怖れを振り払おうとした。
(くそっ、)
(こいつに抱かれたくて仕方ないのは、本当なのに)
(なんであんな奴らの記憶に、邪魔されるんだ)
 気は急いて、先をねだるようにシンドバッドの頭に指を差しこんでかき混ぜて、熱く反応した下肢を舐られれば、確かな快感が腰を灼いた。
「っう、あ、アッ…ふあ、ンッ…っシ…ぁ、あっ…!」
 それでも指先はわずかにふるえて、それを抑えこむようにシンドバッドの髪をまさぐれば、先端からあふれでた蜜を啜りあげられびくびくっと腰が浮きあがってしまう。己の痴態を自覚するごとにどこかからそれを指摘し嘲笑う声が聞こえてくるようで、ジュダルは何度もその声を振り払おうとかぶりを振った。
(やだ、)
(こいつのことしか、考えたくないのに)
(こいつが怖いんじゃないんだから、ふるえたらいけねーのに)
 香油を纏った指が尻の狭間をなぞって、奥まった孔をずっぷりと満たしていく。
「ふあ、あ、ンンッ…! ひ、ンッ…あ、ぅ、ん、ンッ……!」
 考えれば考えるほど焦って、気づかれたらどうしようと不安になって、どんなに自分の中で処理しようと思っても、そんな脆いものが最後まで隠し通せるわけがなくて。
「…ジュダル?」
 とうとうふるえは肌を伝わり、触れている相手へと信号を送ってしまう。
 どうしようと瞳を惑乱に揺らしかけたジュダルを、すべてを見透かすような優しい視線が包みこんだ。
「我慢するな。いやならいや、こわいならこわいって、言えよ?」
 汗で張りついた額を愛しげにそっと撫でる指に、きゅうっと胸が苦しくなった。
(そうだ、)
(もう、言ってもいいんだ)
(泣いてもいいんだ)
 自分だけが焦がれていて、自分だけが弱いのがいやで、忘れかけていた選択肢。
(もう、分け合う覚悟も、勇気も、ちゃんとあるから)
(こいつが、くれたから)
「っ……こわく、ない」
 気づけば、ふるえは止まっていた。
 代わりにあふれてしまったのは、ほろほろと頬を濡らす熱いものだったけれど。
(ああ、しあわせだ)
「ッ…シンドバッド、はやく、いっしょに、」
 身体を満たしていく熱がこんなにもあたたかく感じられたのは、はじめてだった。
 少しずつ温度をあげていくそれが理性を蕩かし白く弾けるまで、二人はしっかりと身体を繋げ、互いを欲し続けた。



 ふと目を覚ませば、頭上から静かな寝息が聞こえる。
 しっかりと腕の中に囲いこまれ、手のひらすら握られたままで、ジュダルは胸を騒がせるむずがゆさに苦笑しながらシンドバッドの寝顔を見上げた。
 もうとっくにふるえの止まった手のひらは、しっかりと愛しい人の手の中にある。
(そうか)
(俺は、弱くなったんじゃない)
(前よりもっと、強くなれる)
(こいつの、隣なら)
 相手が寝ているのをいいことに、ジュダルはしあわせの溶けこんだ笑みに頬をゆるめた。
「シンドバッド……ありがと」

 あまえるように寄り添い直したジュダルが、真っ赤に染まったシンドバッドの耳たぶに気づくのは、もう少しだけあとのこと。




Happy end!
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