二次創作女性向小説置き場
主にマギ(シンジュ)青エク(志摩雪及び雪男受)
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2024.05.07 Tuesday
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迷い猫はしんだふり 5‐2(完)
2012.06.02 Saturday
*
「……え、」
ジュダルの目の前のテーブルに示されたのは、きらりと黒く光る一枚のカード。
家に帰ってくるなりかしこまった表情をしたシンドバッドにリビングに呼ばれて、机の上のものがどう自分にかかわってくるかわからなくて、ジュダルは思わず戸惑いを露わにした声を漏らしてしまった。
「…これで当面は生活できるはずだ。どこかに住むなら俺が保証人になるから、書類をこちらに送ってくれればいい」
「え?」
シンドバッドが何を言い出したのか、ジュダルは理解するのにひどく時間を要した。
(これで、生活?)
(どこかに住む?)
(ここ以外の、どこかに?)
頭の中でシンドバッドが言ったことを反復してやっと、嫌な予感がざわりと頬を撫でた。
「好きなところへ行きなさい。…無理にここにいることはない」
「ッはァ…?」
何を言っているんだ、と笑い飛ばすように発したはずの言葉は、襲いくる予感のせいでいびつにふるえてしまった。
そんな情けない反応しか返せないままのジュダルを置いて、シンドバッドはどんどん話を進めていく。
「ああ、ただし、ちゃんと働けよ? 三ヶ月、何もアクションが見られなかったらカードは使えなくなる。だから一応、支援をする代わりに一定期間監視はつけさせてもらうぞ。それと、身体を使った仕事はナシだからな」
「え、何、なんで」
「別に、ああいう仕事がダメだと言っているわけじゃない。他の仕事をして、できることを増やしてみるといい」
「違う、そこじゃねーよ。…ッなんで、出てかなきゃいけねーの? 無理に、ってなんだよ。俺が、無理してここにいるって言いたいのか?」
頭が、うまく回らない。
視線が、合わせられない。
無理をしているように見えるのなら、今からでもそう見えないように鼻で笑い飛ばして、すっぱり否定してしまえばいいはずなのに、シンドバッドが自分を追い出す気で話を進めているのだと思うと虚脱感が襲って、足元がぐらぐらと頼りなくて、たとえ誤解を解いてもそんなものただの口実で、シンドバッドの心は変わらないかもしれないなんて考えたら言葉は続かなくて。
「…違うのか? だってお前、俺が触ると泣きそうになるじゃないか」
「!」
思わず見上げた先のシンドバッドの顔もまた、ほんのわずか泣きそうなこわばりを眦に滲ませていた。
(なんだ、)
(バレてたのか)
シンドバッドに触れられるとぎゅっと胸が軋むから、顔に出さないように必死だった。
一緒にいる時間が増えるほど、距離が近くなるほど、よろこびよりも苦しさが増していたのは事実だった。
(嬉しいけど、一緒にいたいけど、優しくされるとその分、泣きたくなるくらい苦しくて、さみしい)
「…ほら、そういう顔するだろ」
苦笑する声が聞こえて、また顔に出てしまったのかと自分の迂闊さに呆れるしかない。
「ッ! 違う、これは」
シンドバッドに触れられるのを我慢しているから苦しいのでは、もちろんない。
でも、本当のことを告げるには、勇気と覚悟が必要だった。
(言わなきゃ、いけないのか)
(もう、どっちみち終わりなのか)
どうせこのままシンドバッドの思いこみを否定しなかったら、その先に待っているのは『終わり』なのだ。
(どうせ終わりにされるなら、言っても同じか)
そう考えれば踏ん切りがついた気がして、ジュダルは喉にわだかまっていたものをこくりと飲み下すと、口を開いた。
「…だってお前、俺のこと抱かないくせに触ってくるじゃん」
身体を繋ごうと誘う手は拒むのに、距離を詰めて触れてくる手はあるから、期待する気持ちが捨てられなくて、シンドバッドが何を考えているかわからなくて、だから、苦しいのだと。
そこまで赤裸々に伝えることはできなかったけれど、少しずつ言葉を選んで告げるつもりだった。
「……え…、」
しかし、シンドバッドの戸惑ったような声が、なんとかジュダルが振り絞ったなけなしの勇気を砕いた。
「え、いや、触って…って、そんな意味にとれるような触り方はしてないだろう?」
苦笑いを浮かべて、こちらを確認するようにおそるおそる見つめ返してくるシンドバッドに、『お前は何を期待しているんだ?』と言われているような気がした。
「ッッ! ――っそうだよな!! お前が好きで俺を抱こうとしたことなんかないもんな!!」
感情のままに絞りだした叫びのせいで、カッと喉が焼ける。
(わかってた)
(期待するなんてバカだって、わかってたのに)
「――ッッ!」
ガタッとソファーから立ち上がってぎり、とシンドバッドを睨みつけると、ジュダルは部屋を飛び出した。
「……え…?」
取り残されたシンドバッドが、ジュダルの激昂の意味について考える暇などなかった。
(え、ちょっと待て、それは一体どういう意味だ)
ぐるぐると頭の中を整理しようとする中で、シンドバッドの脳裏にこびりついていたのは、ついさっき席を立ったジュダルの殺意のこもったひと睨みで。
怒りの様相を装っていたが、あの目は確かに深くざっくりと傷ついたように曇っていて。
(だめだ、考えている時間はない)
ジュダルの後を追うように部屋を飛び出して、淡く街灯が照らすもと、道を駆ける黒い頭を追いかける。
「…――ッジュダル…!!」
(これだけはわかる)
(このまま行かせちゃいけない)
(今逃したら、あいつはもう戻ってこないかもしれない)
シンドバッドが目にしたジュダルは、確かにそんな予感をさせるような表情をしていた。
振り返らず全力で逃げ続けるジュダルの背を見れば、その確信は深まるばかりで。
「ッジュダル、待て…!」
届きそうで、届かない。
何度もその背に手を伸ばす。
(落ち着け、よく考えろ)
(今、ただひとつわかったのは)
(ジュダルは、たぶん、俺と一緒にいたいんだ)
(そして、俺に触れてほしいと)
(そうでなければ、あの場面であんな顔をするわけがない)
ジュダルが傷ついた目をしたのは、シンドバッドが性的な意図を持ってジュダルに触れたつもりはなかった、と示したときだったから。
(ジュダルも、そういう意味で俺に触れられることを望んでいたってことだ)
(うぬぼれじゃない、きっと)
(それなら、俺は返さないと)
(大人ぶって言わなかった我儘を)
「ジュダル!!」
迷いを捨てればあっけないほど簡単に、伸ばした手は届いた。
腕を掴んで、引き寄せて、どっと胸にぶつかってきた頭ごと抱きこんで、はぁはぁと耳障りな自分の呼吸音の間から、ジュダルの耳に届くようにひとつひとつ言葉を放つ。
「ッ…ジュダル、聞いてくれ。…っ大事なことを、言い忘れていた」
「ッッ…!」
腕の中でもがく青年の身体をしっかり抱き留めながら、シンドバッドは心の奥底に深く沈めていた自分の思いを引っぱり出し、舌の上にのせた。
「ッ…俺は、お前に、傍にいてほしい」
「――!」
びくっとジュダルの肩がこわばり、抵抗する動きが止まる。
「……ッ…お前は、っ…? お前は、どうしたい…?」
あくまでも大切なのはジュダルの意思で、焦りと緊張を抱えながらじっと彼の答えを待つ。
せわしない二人の呼吸音が、静かな夜の闇に少しずつ吸いこまれていった。
あたりが静寂を取り戻していくなかで、しばらくしてからやっと、ジュダルはようやく湧きおこってくる感情を口に出すことができた。
「……っんで、」
掠れてひび割れた声が、ぽろりとこぼれる。
「え…?」
聞き返したシンドバッドの胸板にドッと拳を叩きつけて、ジュダルは胸に渦巻く激情を吐き出した。
「なんで…ッ…なんでそうやって、俺の頭ン中ぐっちゃぐちゃにしてくんだよ、お前は…! ッざけんな……!」
(なんだよ、出てけっつったり、そういう意味じゃ触ってないとか、お前は抱かないとか、なのに傍にいてほしいって、意味わかんねーよ)
唸るように絞りだした声は泣きそうに上擦っていて、頭を巡るのは整理できないことばかりで、しかし苛立ちをぶつけるように胸を叩いた拳は、相反する心を表すようにぎゅうと男の胸元を引き掴んだ。
「…っ……ジュダル…、」
まるでそれが合図だったかのように、シンドバッドがジュダルの顔を覗きこむようにして唇を押しつけてくる。
「んッ…! ぅ、ん、ふっ…んー…ッ!」
唇で蓋をするようにぴったりと互いのそれが合わさって、何度も何度も啄まれる。
衝動的でせわしないくせに、ひどくあまやかでやわらかいその口づけは、ジュダルが知りたかったことをすべて含んでいるような気がした。
とろりとジュダルの身体に流れこんでくるものが、哀しみと怒りでとげとげしくなっていた心までを融かし、あたためていく。
「…ぅ、ん……ン…ッ…、」
(ちくしょう、)
(悔しいけど、でも)
今もしっかりと身体を抱き締めてくる腕も、奪うようなあまいキスも、息も整える間もないほど焦ったように告げられた言葉だって、確かにジュダルがずっとずっと、望んでいたもので。
(すごく悔しいけど、すごくうれしい)
「…っふ…ン…、…はっ…」
唇がほどかれる。
頭を上げ、じっと答えを待つように見つめてくるシンドバッドを熱く潤む視界に映すと、ジュダルは心を決めたように自ら男の首に腕を回し、抱きついた。
「っ…!」
(俺が、)
(俺が、したいのは)
涙にひりついた喉を開けて、ちゃんと音になるように、腹の底から詰まった声を押し出す。
「ッ……シンドバッド、俺は」
お前とずっと、一緒にいたい。
しがみついた耳元に唇を押しつけて、なんとか音になった言葉に、ぎゅうと痛いくらいの抱擁で返されて、ジュダルは胸が壊れそうなほどのよろこびにじわりと熱くなった瞼を閉じた。
END.
「……え、」
ジュダルの目の前のテーブルに示されたのは、きらりと黒く光る一枚のカード。
家に帰ってくるなりかしこまった表情をしたシンドバッドにリビングに呼ばれて、机の上のものがどう自分にかかわってくるかわからなくて、ジュダルは思わず戸惑いを露わにした声を漏らしてしまった。
「…これで当面は生活できるはずだ。どこかに住むなら俺が保証人になるから、書類をこちらに送ってくれればいい」
「え?」
シンドバッドが何を言い出したのか、ジュダルは理解するのにひどく時間を要した。
(これで、生活?)
(どこかに住む?)
(ここ以外の、どこかに?)
頭の中でシンドバッドが言ったことを反復してやっと、嫌な予感がざわりと頬を撫でた。
「好きなところへ行きなさい。…無理にここにいることはない」
「ッはァ…?」
何を言っているんだ、と笑い飛ばすように発したはずの言葉は、襲いくる予感のせいでいびつにふるえてしまった。
そんな情けない反応しか返せないままのジュダルを置いて、シンドバッドはどんどん話を進めていく。
「ああ、ただし、ちゃんと働けよ? 三ヶ月、何もアクションが見られなかったらカードは使えなくなる。だから一応、支援をする代わりに一定期間監視はつけさせてもらうぞ。それと、身体を使った仕事はナシだからな」
「え、何、なんで」
「別に、ああいう仕事がダメだと言っているわけじゃない。他の仕事をして、できることを増やしてみるといい」
「違う、そこじゃねーよ。…ッなんで、出てかなきゃいけねーの? 無理に、ってなんだよ。俺が、無理してここにいるって言いたいのか?」
頭が、うまく回らない。
視線が、合わせられない。
無理をしているように見えるのなら、今からでもそう見えないように鼻で笑い飛ばして、すっぱり否定してしまえばいいはずなのに、シンドバッドが自分を追い出す気で話を進めているのだと思うと虚脱感が襲って、足元がぐらぐらと頼りなくて、たとえ誤解を解いてもそんなものただの口実で、シンドバッドの心は変わらないかもしれないなんて考えたら言葉は続かなくて。
「…違うのか? だってお前、俺が触ると泣きそうになるじゃないか」
「!」
思わず見上げた先のシンドバッドの顔もまた、ほんのわずか泣きそうなこわばりを眦に滲ませていた。
(なんだ、)
(バレてたのか)
シンドバッドに触れられるとぎゅっと胸が軋むから、顔に出さないように必死だった。
一緒にいる時間が増えるほど、距離が近くなるほど、よろこびよりも苦しさが増していたのは事実だった。
(嬉しいけど、一緒にいたいけど、優しくされるとその分、泣きたくなるくらい苦しくて、さみしい)
「…ほら、そういう顔するだろ」
苦笑する声が聞こえて、また顔に出てしまったのかと自分の迂闊さに呆れるしかない。
「ッ! 違う、これは」
シンドバッドに触れられるのを我慢しているから苦しいのでは、もちろんない。
でも、本当のことを告げるには、勇気と覚悟が必要だった。
(言わなきゃ、いけないのか)
(もう、どっちみち終わりなのか)
どうせこのままシンドバッドの思いこみを否定しなかったら、その先に待っているのは『終わり』なのだ。
(どうせ終わりにされるなら、言っても同じか)
そう考えれば踏ん切りがついた気がして、ジュダルは喉にわだかまっていたものをこくりと飲み下すと、口を開いた。
「…だってお前、俺のこと抱かないくせに触ってくるじゃん」
身体を繋ごうと誘う手は拒むのに、距離を詰めて触れてくる手はあるから、期待する気持ちが捨てられなくて、シンドバッドが何を考えているかわからなくて、だから、苦しいのだと。
そこまで赤裸々に伝えることはできなかったけれど、少しずつ言葉を選んで告げるつもりだった。
「……え…、」
しかし、シンドバッドの戸惑ったような声が、なんとかジュダルが振り絞ったなけなしの勇気を砕いた。
「え、いや、触って…って、そんな意味にとれるような触り方はしてないだろう?」
苦笑いを浮かべて、こちらを確認するようにおそるおそる見つめ返してくるシンドバッドに、『お前は何を期待しているんだ?』と言われているような気がした。
「ッッ! ――っそうだよな!! お前が好きで俺を抱こうとしたことなんかないもんな!!」
感情のままに絞りだした叫びのせいで、カッと喉が焼ける。
(わかってた)
(期待するなんてバカだって、わかってたのに)
「――ッッ!」
ガタッとソファーから立ち上がってぎり、とシンドバッドを睨みつけると、ジュダルは部屋を飛び出した。
「……え…?」
取り残されたシンドバッドが、ジュダルの激昂の意味について考える暇などなかった。
(え、ちょっと待て、それは一体どういう意味だ)
ぐるぐると頭の中を整理しようとする中で、シンドバッドの脳裏にこびりついていたのは、ついさっき席を立ったジュダルの殺意のこもったひと睨みで。
怒りの様相を装っていたが、あの目は確かに深くざっくりと傷ついたように曇っていて。
(だめだ、考えている時間はない)
ジュダルの後を追うように部屋を飛び出して、淡く街灯が照らすもと、道を駆ける黒い頭を追いかける。
「…――ッジュダル…!!」
(これだけはわかる)
(このまま行かせちゃいけない)
(今逃したら、あいつはもう戻ってこないかもしれない)
シンドバッドが目にしたジュダルは、確かにそんな予感をさせるような表情をしていた。
振り返らず全力で逃げ続けるジュダルの背を見れば、その確信は深まるばかりで。
「ッジュダル、待て…!」
届きそうで、届かない。
何度もその背に手を伸ばす。
(落ち着け、よく考えろ)
(今、ただひとつわかったのは)
(ジュダルは、たぶん、俺と一緒にいたいんだ)
(そして、俺に触れてほしいと)
(そうでなければ、あの場面であんな顔をするわけがない)
ジュダルが傷ついた目をしたのは、シンドバッドが性的な意図を持ってジュダルに触れたつもりはなかった、と示したときだったから。
(ジュダルも、そういう意味で俺に触れられることを望んでいたってことだ)
(うぬぼれじゃない、きっと)
(それなら、俺は返さないと)
(大人ぶって言わなかった我儘を)
「ジュダル!!」
迷いを捨てればあっけないほど簡単に、伸ばした手は届いた。
腕を掴んで、引き寄せて、どっと胸にぶつかってきた頭ごと抱きこんで、はぁはぁと耳障りな自分の呼吸音の間から、ジュダルの耳に届くようにひとつひとつ言葉を放つ。
「ッ…ジュダル、聞いてくれ。…っ大事なことを、言い忘れていた」
「ッッ…!」
腕の中でもがく青年の身体をしっかり抱き留めながら、シンドバッドは心の奥底に深く沈めていた自分の思いを引っぱり出し、舌の上にのせた。
「ッ…俺は、お前に、傍にいてほしい」
「――!」
びくっとジュダルの肩がこわばり、抵抗する動きが止まる。
「……ッ…お前は、っ…? お前は、どうしたい…?」
あくまでも大切なのはジュダルの意思で、焦りと緊張を抱えながらじっと彼の答えを待つ。
せわしない二人の呼吸音が、静かな夜の闇に少しずつ吸いこまれていった。
あたりが静寂を取り戻していくなかで、しばらくしてからやっと、ジュダルはようやく湧きおこってくる感情を口に出すことができた。
「……っんで、」
掠れてひび割れた声が、ぽろりとこぼれる。
「え…?」
聞き返したシンドバッドの胸板にドッと拳を叩きつけて、ジュダルは胸に渦巻く激情を吐き出した。
「なんで…ッ…なんでそうやって、俺の頭ン中ぐっちゃぐちゃにしてくんだよ、お前は…! ッざけんな……!」
(なんだよ、出てけっつったり、そういう意味じゃ触ってないとか、お前は抱かないとか、なのに傍にいてほしいって、意味わかんねーよ)
唸るように絞りだした声は泣きそうに上擦っていて、頭を巡るのは整理できないことばかりで、しかし苛立ちをぶつけるように胸を叩いた拳は、相反する心を表すようにぎゅうと男の胸元を引き掴んだ。
「…っ……ジュダル…、」
まるでそれが合図だったかのように、シンドバッドがジュダルの顔を覗きこむようにして唇を押しつけてくる。
「んッ…! ぅ、ん、ふっ…んー…ッ!」
唇で蓋をするようにぴったりと互いのそれが合わさって、何度も何度も啄まれる。
衝動的でせわしないくせに、ひどくあまやかでやわらかいその口づけは、ジュダルが知りたかったことをすべて含んでいるような気がした。
とろりとジュダルの身体に流れこんでくるものが、哀しみと怒りでとげとげしくなっていた心までを融かし、あたためていく。
「…ぅ、ん……ン…ッ…、」
(ちくしょう、)
(悔しいけど、でも)
今もしっかりと身体を抱き締めてくる腕も、奪うようなあまいキスも、息も整える間もないほど焦ったように告げられた言葉だって、確かにジュダルがずっとずっと、望んでいたもので。
(すごく悔しいけど、すごくうれしい)
「…っふ…ン…、…はっ…」
唇がほどかれる。
頭を上げ、じっと答えを待つように見つめてくるシンドバッドを熱く潤む視界に映すと、ジュダルは心を決めたように自ら男の首に腕を回し、抱きついた。
「っ…!」
(俺が、)
(俺が、したいのは)
涙にひりついた喉を開けて、ちゃんと音になるように、腹の底から詰まった声を押し出す。
「ッ……シンドバッド、俺は」
お前とずっと、一緒にいたい。
しがみついた耳元に唇を押しつけて、なんとか音になった言葉に、ぎゅうと痛いくらいの抱擁で返されて、ジュダルは胸が壊れそうなほどのよろこびにじわりと熱くなった瞼を閉じた。
END.
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